移民労働者の権利擁護を主張する弁護士、チャンドラ・バトナイガー(Chandra Bhatnagar)さんの講演(写真)を聞いた。


クリスチャン・サイエンスモニター紙によると、米国には700万〜2000万人の不法移民労働者がいると推定されている。多く見積もれば人口の約10%が不法移民ということだ。一番数が多いのは約600万人に上るメキシコ人。エルサルバドルグアテマラといった中米諸国に続き、インド、中国といったアジア諸国からの移民も多い。特にインドとブラジルからの不法移民はこの10年で急増しているそうだ。


彼らが従事するのは、アメリカ人がやりたがらない危険な仕事。バトナイガーさんによると、ミシシッピ州の野菜加工工場で働いていたインド人労働者はある日、突然解雇された。代わりに雇われたのは彼女より安く時給8ドルで働く不法移民。しばらくすると、不法移民はさらに安い時給6ドルで働く「ゲストワーカー」に仕事を奪われたそうだ。


こうした労働者は病気やけがをしても病院に行けずに亡くなることが少なくない。あるインド人が病死した時は雇用主が遺体を本国に送り返す料金を出さなかったそうだ。そこで同僚のインド人たちがお金を出し合って、彼の遺体を家族の元に送り返した。彼らがバトナイガーさんに送ってよこした手紙には「我々は動物のように扱われている。奴隷になったような気分だ」と記してあったそうだ。


最低賃金週休2日、8時間労働のルールは、不法移民には適用されない。死ぬか体を壊すまで働かされて使い捨てられるのだ。すでにアメリカの建設業界、家事サービス、農場は不法移民なしでは成り立たない。本来なら法律を改正して現状に合わせるべきだが、企業は搾取の構造を温存したいので、彼らのステイタスを"不法"のまま留めておこうとする。


自由貿易はこうした状況に拍車をかける。カトリーナ後の復興にあたり、建設現場には大量のメキシコ人労働者が働いている。そのうちの1人はもともととうもろこし農家だった。NAFTA後にアメリカから安価なとうもろこしが入ってきたため、農業では食べられなくなり仕方なく出稼ぎにきたそうだ。「アメリカにいたくないし、アメリカ人も自分たちメキシコ人を嫌っている」と本人は言うが家族を食べさせるために仕方なく働いているという。


アメリカ企業のトップは、ことあるごとにCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)とかGood Corporate Citizenship(良き企業市民)と口にする。地域のNGOや大学に寄付をする「社会貢献」も盛んだ。全てのアメリカ企業が不法移民を搾取しているわけではないが、右手でいいことをしながら左手で悪事を働くような構図を見ると、寄付なんていいから、まずちゃんと賃金を払えよ、と思う。


講演の中で解決策として提示されたのは、個人の力を集めるということだった。「かつてクルマにはシートベルトがなかった。企業が率先して取り付けたのではなく、安全を求める消費者の声がプレッシャーになって企業を動かした。自分は弁護士だが、法律はあくまで戦略として使えるだけ。個人個人が動くのが大事」と強調するバトナイガーさんの話に、良い意味でのアメリカ民主主義を感じた。アル・ゴアの映画「不都合な真実」にも通じる態度だ。