映画「ノマドランド」の感想

 アメリカ南西部の美しい自然を舞台にしており、大きなスクリーンで見るのに適した映画です。
 
 
 不安定雇用、社会保障の不備、格差社会アメリカを描いた映画――だけではなかった、少なくとも私には、そう解釈できたところが良かった。
 大きな社会問題を前提にしつつ、映画では、人生の終わりをいかに生きるか、に焦点を当てたところが私には面白かったです。
 フランシス・マクドーマンド演じる主人公は、夫を病気で亡くし、住んでいた企業城下町が事業撤退で丸ごと消える、という経験をした高齢女性です。家を失い、改造した大型車で寝泊まりしつつ、Amazonや農作業、国立公園の清掃といった低賃金短期労働をしながら、移動生活をしている。
 彼女には定住の可能性があり、映画の中で私が気づいただけでも3回、知人、家族、友人から「一緒に住もう」とか「うちに泊まって」と言われます。皆、親切で彼女を思いやる人たち。それを断り、ひとりで生きていく姿を描きます。
 20数万円の車修理代を払えない状況を今の私は想像できません。ただ、家族がいてもいなくても、最期はひとりで死んでいくという感じが常にあるので、この主人公の個人的な生き方には共感するところが多々ありました。
 ここまで、個人として映画を味わった感想です。ここから先は仕事の話。
 SNSや広告やマーケティングを通じた社会課題の解決に関わる人は、ぜひ見るべき映画だと思います。自分が作っているものが、炎上する可能性があるかも、と思っているメディア関係者も見た方がいい。
 この映画には、冒頭に記した深刻な社会経済問題を踏まえ、その中に生きている人をいたずらに憐れむのではなく、その自己決定と尊厳を重んじる視線があります。
 
1)登場人物を、環境に翻弄される【気の毒な人々として描かない】ことで尊厳を保つことと、
2)彼・彼女たちの自由に見える生き方を【単なる選択の問題として描かない】。それにより、根底にある社会経済問題を「めずらしい」「おもしろい」ものとして消費しないこと
 
かんたんではない1)と2)を両方、含んでいるところが勉強になるはずです。
 最近、社会課題を広告・マーケティング的なアプローチで書いたコンテンツの炎上が続いています。問題となったコンテンツの作り手に、悪意は皆無だと思いますが、2)の問題が繰り返されていると感じるので、この映画から学ぶところが多々あるはず。