漫画「闇金 ウシジマくん」の10巻には、サラリーマンの実態がリアルに描かれている。


この巻の主人公は「小堀」という30代男性。医療機器メーカーの営業マンで、専業主婦の妻と2人の子どもを養っている。誠実だがばか正直な小堀くんはなかなか売上げをあげられず、パワハラ上司に毎日怒鳴られている。帰宅は毎日終電近く、昼食の予算は500円。育児に疲れた妻とは、ほとんど会話もない。


ある日も夜遅く帰宅しようとすると、妻から携帯メールが入る。本文欄には「ひきわり納豆 低脂肪乳」とだけ書かれていた。


帰り道に買ってきてほしいもののリストだが、遅くまで働いている夫に「お疲れさま」の一言もない。妻がそこまで疲れきっていることを示す、すごくうまいシーンだ。長時間労働は、こんなふうにして日本の家庭を破壊している。


ワークライフバランスについて記事を書くなら、これ、絶対読むべき」と夫に勧められた。ふつうのサラリーマンの辛さがリアルに描かれていて目をみはった。そういえば、私が学生の頃、「はたらく」ってこういうイメージだったっけ。つまらない仕事、無理なノルマ、こわい上司、いじわるな取引先。一生働かなくてはいけない私は、卒業したら無期懲役という気分だった。


今の勤め先が雇ってくれたのは、だから、ものすごくラッキーなことだった。そういえばパワハラ上司にはあたったことがない。嫌なこともあったが、多くは自分の能力不足が原因だった。「いつか、やめるかも」と思い続けて、辞めずに11年がすぎた。「失業しても、今の貯金があれば○カ月生活できる」という計算をしなくなって久しい。上司や先輩、同僚がたくさんの前例をつくってくれたおかげで、職場には育児と両立しやすい雰囲気がある。


けれど多くの若い人にとって、仕事と家庭の両立なんて夢物語なのだろう。働く女性が、特にキャリアを追求しているわけでなくても結婚に積極的でないのは、行き着く先が「小堀くんの奥さん」であることを、何となく分かっているからではないか。


日本の男性はもっと家庭参加すべき、と私は今も思っているが、それを可能にするために何ができるのが、もう少し具体的に考えなくてはいけない。