読書

「ベスト&ブライテスト」感想

タイトル通り「最良にして最も聡明な人々」から構成されるケネディ政権が、アメリカを泥沼に引きずり込み、続くジョンソン政権がベトナム戦争をやめられなかった理由を、国務省、国防総省やホワイトハウス高官の経歴、価値観、人柄に容赦ない批判を加えつつ…

読書感想「ナチス軍需相の証言」(上・下:中公文庫)

著者はヒトラーのもと、軍需大臣を務め、戦後ニュルンベルク裁判で20年の刑を科された。もとは建築家であり、ナチスの功績を建築の形で何世紀も残したかったヒトラーに気に入られて大臣に登用されている。 上巻の途中まで、純粋な技術・芸術好きが全体主義政…

読書感想:ミラン・クンデラ「冗談」

30年前に読んで印象深かったものを文庫で再読。 主人公の男性は、学生時代、思いを寄せた後輩女性に出した絵葉書にいきがって書いてしまった「冗談」で、いったんは社会的に破滅する。書いたのは社会主義革命に関する軽口だった。好きなった女性がまじめな性…

読書感想:ユージン・B・スレッジ「ペリリュー・沖縄戦記」

夏休み読書の中でも特に心に残ったもの。 著者はアメリカの鳥類学者。大学進学を前に志願して海兵隊に入り1944年秋のペリリュー島と45年春の沖縄戦を経験しました。激戦地で歩兵が見たものと考えたことが描かれています。 本書の終わりで著者が記すのは軍隊…

読書感想:長澤信子「台所から北京が見える」

すごく面白い。主婦が自分探しからはじめた中国語学習が観光ガイドや通訳の仕事に発展していく。 著者は女性が大学へ行かず結婚したら家庭に入るのが当たり前だった時代に、子育て卒業後をどう生きようか真剣に考え、新聞に人生相談を送り、回答を手掛かりに…

書評"Quittig"

bookplus.nikkei.com 日経Book Plusに「やめる力(原題:Quitting)」について書評を書きました。冒頭、著者の経験が興味深く、何かをやめようか、やめないか迷っている人の背中を押してくれる本です。

感想「なぜ男女の賃金に格差があるのか:女性の生き方の経済学」

原題は「キャリアと家族:平等を目指す女性の1世紀にわたる旅」となっており、様々なデータを駆使しアメリカ女性を5つに分類しコーホート分析しています。 分類は厳密で、各世代を一般化しうる基準が示されており、例えば「マリッジバー」により既婚女性が合…

45年遅れの女性解放運動を感じる。ワシントンを描いたルポから

「ウーマン・リブ運動が何故、一見、世界で一番恵まれたアメリカ女性達、それも中産階級の女性達の間から起り、まさにそのような運動を絶望的に必要としている他国の女性達の間から起らなかったかと言えば、自由と平等と論理性を基本概念、あるいは建前とす…

とにかくよく泣く恋愛模様「古今和歌集」

四季、恋愛、死別など状況別に和歌が収録されていて読みやすいです。 832番の後半「今年ばかりは墨染めに咲け」は、親しい人を亡くした時の気持ちを千年以上こえて伝えており、とても好き。795番「世の中の人の心は花染めの移ろいやすき色にぞありける」は、…

伊勢志摩観光&予習の読書

三重県津市で働いている友人を訪ねて週末の旅行。的矢湾を見下ろすお店で牡蠣を食べました。生やフライはもちろん、思いつく限り様々な料理方法で牡蠣づくし。的矢湾はとても切れ込みが深く、ぱっと見ると川みたいですが、左上に海が広がっています。 食事の…

日中国際結婚を観察する文化人類学の本

日本人男性と中国人女性が結婚紹介所を通じて知り合い、結婚していく流れを数年にわたり参与観察した研究。著者は文化人類学者の山浦ちぐささん。 日本男性は40代後半から60代、中国女性は東北地方のある町に住む20代で、結婚後は女性が日本に移り住みます。…

現代にも通用する100年前の主張:社会主義フェミニスト・山川菊栄

最近、ジェンダーやフェミニズムへの関心が広がっています。ただ、TwitterなどSNSしか見ていないと、いろいろ誤解しがち。そもそも女性解放って何を目指していたのか知りたい人にお勧めしたいのが、山川菊栄の著作です。 山川菊栄(1890~1980)は初期におけ…

フィリピン出身きょうだいの進路指導を巡る問題を描く研究書

ある関西の中学校に通うフィリピン出身のきょうだいが、特別支援学校に進学する過程を、彼らを支える母親、中学校の教員たち、通訳を担った人物などの語りで浮き彫りにしています。 書籍タイトルへの答えは、終章近くで明確になります。包括的移民政策を持た…

100年前、参政権を持たない女性たちのアドボカシー:読書「廃娼ひとすじ」

古書か図書館で入手するのが少し手間ですが、身体の底から元気になるでしょう。 著者はキリスト教婦人団体で公娼制度廃止に尽力した女性。牧師の家庭に生まれ、親元を離れ女子学院で学びました。子育て、夫の仕事サポートをしつつ、当初は10時~16時に限定し…

ナチスの官僚機構の働きを克明に描く歴史書

アメリカの歴史学者ラウル・ヒルバーグによる大著。タイトルの「ヨーロッパ・ユダヤ人の絶滅」とは、いわゆる「ホロコースト」を指します。 本書はナチス・ドイツの官僚機構としての働きを一次資料の文書から解き明かしており、膨大な参考、引用文献を踏まえ…

村上春樹さんの小説再読&インタビュー集を読んで考えたこと

国内外メディアによる村上春樹インタビュー集。最後に収録されているのは2011年実施、スペインメディアによるもので、原子力発電への明確な批判が含まれています。 何かの「主義」ではなく個人と物語を信じる村上さんの価値観は何度か繰り返し語られます。長…

冬休み読書(2)「蜻蛉日記」

著者は藤原道綱の母。百人一首では「嘆きつつ ひとり寝る夜の明くる間は いかに久しき ものとかは知る」の人です。巻頭の家系図によると「道綱母」は藤原兼家の4人いた妻のひとり。兼家は時姫との間に道長を始め5人の子どもがいたそうです。 この本は道綱母…

冬休み読書(1)「枕草子」

冬休み読書。 中宮定子との機知に富んだやり取り、漢詩の一説を即、実践して見せた有名な一節が印象的です。文字情報だけなのに、目の前に鮮やかな色が浮かんでくるのが見事。 ここまでは無難な感想ですが、読み進めるうちに清少納言が何かに似ていることに…

「判例時報」で元最高裁判事・山浦善樹さんを囲む座談会に出ています

判例時報9月11・21日号で山浦善樹・元最高裁判事を囲む座談会が掲載されました。弁護士、ジャーナリスト、新聞記者の方々と一緒に話し合いました。 山浦さんは、2015年12月16日、最高裁大法廷が夫婦同姓の強制を合憲とする判決を出した際、強い反対意見を出…

「判例時報」で元最高裁判事・山浦善樹さんを囲む座談会に出ています

判例時報9月11・21日号で山浦善樹・元最高裁判事を囲む座談会が掲載されました。弁護士、ジャーナリスト、新聞記者の方々と一緒に話し合いました。 山浦さんは、2015年12月16日、最高裁大法廷が夫婦同姓の強制を合憲とする判決を出した際、強い反対意見を出…

朝日新聞に書評を書きました

「売れてる本」のコーナーに「トヨタの会議は30分」について、ヒットの背景ふくめて書きました。 www.asahi.com シンプルで読みやすい本です。ただ、他の組織がまねするのは難しい。 なぜなら、多くの会議では責任逃れのため、言い切りを避け、無意味に長く…

半蔵門会オンライン勉強会で「ジェンダーで見るヒットドラマ」についてお話しました

出版、テレビなどメディア関係者でつくる半蔵門会、オンライン勉強会で拙著「ジェンダーで見るヒットドラマ」についてお話しました。さまざまな深い質問をいただき、楽しかったです。

Vogueウェブ版に書評:下山進「アルツハイマー征服」

非常に重厚な医療ノンフィクション。学術論文を読み込み、国内外の研究者、患者、その家族などに20年近く続けた取材に基づく本です。既に高い評価を受けています。 まだ、あまり書かれていないこの本の魅力は、登場する人物の描き方がジェンダー中立であるこ…

Vogueウェブ版に書評:原野守弘「ビジネスパーソンのためのクリエイティブ入門」

ポーラのジェンダー平等広告、バレンタインデーに「義理チョコをやめよう」と呼びかけるGODIVA広告など、数々のフェミニスト広告を手掛けてきたクリエイター原野守弘さんの著書をレビューしました。 www.vogue.co.jp

Vogueウェブ版に書評:ヴィルジニー・デパント「キングコング・セオリー」

仕事半分趣味半分でジェンダー絡みの本を読む機会は多いのですが、久々に頭をガツンとやられた感じです。 www.vogue.co.jp 平均的な日本女性と比べると、相当自由に生きているはずの私も、本書を読んでいろいろ縛られていたことに気づきました。

Vogue書評、マーガレット・アトウッド「誓願」

アメリカ合衆国を狂信国家ギレアデが占領する近未来を描く小説の書評を書きました。前作「侍女の物語」から35年経って出版された続編「誓願」について。Huluのドラマ化も非常に質が高くてお勧めです。女性が「産む機械」として国家管理される恐ろしい世界が…

講談社の本と子育てのサイトにコラム執筆

講談社の本と子育てのサイトにコラムを書きました。近年増えている父親育児と絵本や子どもの本について取り上げています。 cocreco.kodansha.co.jp

Vogueウェブ版に書評をかきました中公新書「民衆暴力」

Vogueウェブ版に書評をかきました。研究者の良心と執念を感じる良書です。 www.vogue.co.jp 暴力が権力に向かう場合と弱者に向かう場合、両方あって、簡単に分けられない、と繰り返し書いてある。事例はけっこう読んでいて辛いですが、歴史修正主義に抗うた…

男性編集者の料理本をFRaUで書評しました

中川淳一郎著「意識の低い自炊のすすめ」を書評しました。著者はウェブ媒体で活躍する編集者。毎日、夫婦の食事を作っています。買い物や食材の組み合わせの工夫に加え、料理にまつわるさまざまな思い込みから自由になれる楽しい本です。 gendai.ismedia.jp

メイ・マスク自伝『72歳、今日が人生最高の日』書評をVogueに書きました

こちらです。セレブ本に分類されそうですが、実直に生きてきたメイさんの人生が正直に綴られています。自分と子どもの意思を大切にする、メイさんの姿勢に励まされます。 www.vogue.co.jp