冬休み読書(1)「枕草子」

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 冬休み読書。

 中宮定子との機知に富んだやり取り、漢詩の一説を即、実践して見せた有名な一節が印象的です。文字情報だけなのに、目の前に鮮やかな色が浮かんでくるのが見事。

 ここまでは無難な感想ですが、読み進めるうちに清少納言が何かに似ていることに気づく。
 娘と話をしたら「レストランおばさん」ではないか、という。レストランおばさんとは、飲食店で話の内容が筒抜けになっている人を子どもが批判する際の呼称で、個人名や資産状況、気持ちなどを周囲を気にせず大声で話す人を指します。

 「枕草子」は清少納言の価値観を記したエッセイ集。考えたことをそのまま綴ってあり、例えば容姿の優れた男性についてほしくない役職とか、目の細い男性は女性みたいだとか、山寺に行ったら身分が低い人がそばにいて嫌だったとか書いてあります。現代人のおしゃべりと変わりません。


 感情だだ漏れに加えて私が強く感じたのは、清少納言の美的感覚が身分制度に基づくこと。
枕草子」には、天皇や皇后を始めとする人物の素晴らしさを論じた段がいくつもあり、賞賛の根拠は高貴な身分です。逆に身分が低い人たちは蔑みの対象であって、使用人の男性が火事で家など失って嘆いているのをからかって笑って見せる段は、かなり違和感を覚える。1000年前の貴族が持っていた価値観を現代の人権感覚に照らして批判しても仕方ないとは思いつつ。

 美しい宮中の描写に感心しつつ、人と人と思わない記述に辟易しつつ最後まで読むと、清少納言自身は他人に読ませる意図がなかったことに気づきます。他人に読まれてしまったので、もう書くのをやめると記す最後の段は潔い。鍵アカウントがばれたのでSNSやめます、みたいな感覚かもしれませんね。