村上春樹さんの小説再読&インタビュー集を読んで考えたこと

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 国内外メディアによる村上春樹インタビュー集。最後に収録されているのは2011年実施、スペインメディアによるもので、原子力発電への明確な批判が含まれています。

 何かの「主義」ではなく個人と物語を信じる村上さんの価値観は何度か繰り返し語られます。長編小説執筆に必要な体力を養うためマラソンや水泳で体を鍛え早寝早起きの規則正しい生活をしていること等、小説の理解を助ける様々な情報を得られる貴重な一冊です。

 「村上春樹の小説は個人的すぎる」「社会的な視点がない」といった批判をよく見ますし、私もそう考えていた時期があります。ただ、そういう批判の多くは「ノルウェイの森」以降の作品を踏まえていないのでは、と疑問を覚えます。

 地下鉄サリン事件の被害者インタビューに基づくノンフィクション「アンダーグラウンド」、庶民労働者への暖かいまなざしを感じる小説「神の子どもたちはみな踊る」を読んだら、見方が変わるのではないか。

 私はもともと村上さんの小説はぜんぶ読んでいます。最近、再読して痛感するのは、固定的性別役割分担をとっくにひっくり返した上で、薄っぺらいポリコレに回収できない物語を書いているんだな、ということ。

 特に料理する男性、いなくなった妻を何にかえても取り戻そうとする男性、20歳近く年下の女性(中高生)と対等にやり取りする男性を描いていることに今更気づきました。男性主人公が女性に向かって偉そうな説教を絶対にしないことも。

 私自身、7年間の自営業を通じて自らの個人主義に気づきました。これは村上さんの小説世界に登場する人物の価値観と通じます。また「●●主義」を掲げながら、家で皿一枚洗わない、労働力再生産の重要性に気づかない人が「政治や社会」を論じる偽善が大嫌いです。

 そんな今では、個人の生活を掘り下げて見せる村上小説世界の革新性を感じます。