感想「なぜ男女の賃金に格差があるのか:女性の生き方の経済学」

 原題は「キャリアと家族:平等を目指す女性の1世紀にわたる旅」となっており、様々なデータを駆使しアメリカ女性を5つに分類しコーホート分析しています。

 分類は厳密で、各世代を一般化しうる基準が示されており、例えば「マリッジバー」により既婚女性が合法的に解雇されていた、などのエビデンスが示されます。データのみならず、各世代を代表する傑出した女性の事例や、テレビドラマで描かれた時代を象徴する女性を例にあげることで、人間味のある記述になっています。
 謝辞を読むと、この工夫が編集者の助言に基づくものだとわかります。著者はアメリカ経済学会長や経済史学会長を務めた大御所ですが、こうした「えらい先生」の著作でも丸投げにせず「読みやすさ」を求める編集者のプロ意識を感じる。
 ピルにより、出産時期を遅らせ、またコントロールできるようになったことが、女性の仕事とキャリア形成にいかに影響を与えたか、という記述も興味深い。
  後半は邦題が示す通り、男女間賃金格差を丁寧に分析しています。同学歴同職種でも生じる賃金格差の多くは「オンコール」で職場待機するかどうかで説明がつくそうです。逆に言えば、女性の賃金が男性より低くなるのは、育児のために柔軟な勤務を選ぶため、すなわち「フレキシブルワークのペナルティ」というわけです。
 最も面白かったのは男女間賃金格差が大きい弁護士と小さい薬剤師を比較した下りです。日本の男女共同参画政策でも、賃金格差の縮小が主要課題となっている折、政策関係者は必読の書。
 日米の差を最も感じるのは賃金水準で、日本だと大卒共働き夫婦の家計収入になりそうな金額が、米国専門職夫婦だと片方の賃金という感じ。