この本は道綱母の19歳から39歳の20年間を記したもの。ひとことで言えば、一夫多妻制に苦しむ女性の嘆きと愚痴が書かれています。夫が自分のところに頻繁に通ってくれない苦しさと、他の女性のもとへ通っていくことへの嫉妬でがんじがらめになり、生きる意味が見つからない、つらい、苦しい、という感情の吐露が主題でした。
最初は気の毒な女性と思って読み始めたものの、延々、これが続くので正直うんざり。道綱母は「もっと私のところに来てほしい」と素直に言いません。兼家が何日間、自分のもとに通わなかったか数えているのに、いざ彼が訪ねてくると拗ねて会わなかったりする。皮肉を言ってけんかにもなる。
典型的な状況がP229で描かれている。久々に自分のもとを訪れた兼家に対して口をきかずにいると
「なぜ返事をしないんだ」
と尋ねられます。これに対して
「何か申し上げることがあるでしょうか」
と答えてしまう。感情をはっきり言わない。
「どうして来ない、訪れない、憎らしい、悲しい、と言って、なぐったりつねったりすりゃいいじゃないか」
という兼家の言葉は勝手ですが的を射ています。浮気する男性は、この辺り共感して読めそうに思います。
私は「兼家の言う通りだ」と思いつつ、道綱母が兼家に執着する理由がいま一つ分からない。それは、彼女の文章から兼家の魅力が伝わってこないからです。
いっそ浮気夫には見切りをつけて、ひとり息子の道綱の出世の道具として上手く利用すればいいのに、と思うのですが、道綱母はそういうタイプではなかったようです。山にこもって出家のまねごとをしてみたり、兼家に力づくで呼び戻されてみたり、どう生きたいのかはっきりしない人というのが一読した印象です。
食べるのに困っている階級ではないので、浮気夫に愛される以外の生きがいを見つけられれば良かったのに。