読書感想:ミラン・クンデラ「冗談」

 
 30年前に読んで印象深かったものを文庫で再読。
 主人公の男性は、学生時代、思いを寄せた後輩女性に出した絵葉書にいきがって書いてしまった「冗談」で、いったんは社会的に破滅する。書いたのは社会主義革命に関する軽口だった。好きなった女性がまじめな性格だったので、これをからかうことを通じて自分が大人の男性であることを示そうとする、これまた子どもっぽい20歳前後の男性あるあるの行動…のはずが、教条主義的な社会で冗談は通じない。彼は大学を退学になり、きつい炭鉱労働に従事する。
 いろいろあって状況が変わり、ある程度、社会的地位を回復した主人公が試みる、ある復讐が喜劇に終わる、という話です。絵葉書の軽口で若者が人生を棒に振る下りは、今でいう「キャンセルカルチャー」でしょうか、30年前は考えなかったことを今回はちょっと考えました。
 SNSが生んだとされる社会現象はSNS以前からあったんだな、と。この物語は高度に政治化された社会が若者の人生を台無しにする悲劇かと思いきや、人間の頭は恋愛と性でいっぱいであり、それらの多くが喜劇で終わる、というところが面白く、このあたりの受け止めは以前読んだ時と変わらなかった。