今日の午後、Ernst Fehr(エルンスト・フエール)教授のレクチャーを聞いた。


フエール教授はスイスのチューリッヒ大学に所属する経済学者で、実験経済学の権威。『Nature』など理系学術誌にも論文が掲載されている。レクチャーのテーマは「アメリカ人とドイツ人、どちらが人を信用するか」。500〜800人を使って行った実験の手法や結果を説明した。


大方の予想に反して「アメリカ人の方がドイツ人より、他人を信用する」という結果が出た。アメリカ人だけを取り出してみると、白人の方が黒人より他人を信用するそうだ。男女間には有意な差が見られなかったというのも面白い。


実は以前、ウェブサイト上で公開されているフエール教授の履歴書(CV)を見たことがある。アメリカの一流大学(カリフォルニア大学バークレー校やプリンストン大学など)からオファーをもらっていることが分かる。今もチューリッヒ大学にいるということは、彼はこういうオファーを断っているということだ。色んな人のCVを見たが「もらった(けれど断った)オファー」まで書いている人は初めてだ。やっぱり母国のそばを離れたくないのか、それともアメリカ嫌いなのか---。色々予想していたが、今日見たご本人はにこにこと愛想の良いおじさまだった。

威張らない教授たち

日本の非アカデミアから来た私から見ると、こういう場での人々の言動は興味深いものがある。まず、次々に出される質問に偉い学者でも愛想良く答える。会場に集まる聴衆は様々。中には「その論文のタイトルって、ちょっと違うんじゃないですか?」なんてことを言い出す学生もいる。そういう、ちょっと失礼でどうでもよさそうな質問にも丁寧に答える。日本で私が目にしてきたのは「偉い人は威張っているのが当たり前」という世界。だから偉い人が威張っていない光景は今でも何だか新鮮だ。


聴講しているクラスのロビンソン教授も全然威張らない。そもそも、学生は皆、彼のことをファーストネームで「イアン」と呼ぶのだ。クラスは12時半からなので、お昼ご飯を持ってくる学生も少なくない。いつも授業中にヨーグルトやりんごを食べている学生がいて、食べ終わると皮や空き容器をゴミ箱に捨てに行く。「授業中は勝手に立ち歩かない」とうるさく言われた自分の小学校時代が思わず頭をよぎる。行動様式が全然違う。


提出物を教授のところに持っていく時に何か食べている人もいれば、ブーツを脱いでいすの上であぐらをかいている女の子もいる。格好もラフで鼻にピアスはしているし、暖房がききすぎていればノースリーブでお腹やお尻が半分出ているような格好まで脱いじゃう子だっている。


日本の基準からするとかなりお行儀が悪い光景だが教授は一向に気にしない。この間は、突然、誰かの携帯電話が鳴り始めた。着信音がメキシコ風の音楽だったので部屋中が爆笑。教授まで笑っているから「あなた、日本の大学教授とは全然違いますね」と言ったら「そうかなー」と笑顔。いつも軽いカルチャー・ショックを受ける。