本や論文を読んで米国のワークライフバランスの全体像や課題を大雑把につかむことができたので、そろそろインタビューの準備を始めることにした。

私が話を聞きたいのはアメリカ人の共働きカップル。インタビューを通じて、男性がどのくらい家事育児をやっているのか、それが女性のキャリアにどう影響しているのかを知りたいと考えている。プライベートな話題なので協力者を見つけるのが大変かもしれないとは予想していたが、それ以前にひとつ面倒な作業がある。調査手順について事前に大学の許可を得なくてはならないのだ。

研究者が実験やインタビューなど人間を対象にした調査を行う際は、大学内にあるInstitutional Review Board(IRB・写真)と呼ばれる機関に書類を提出して承認を得る。医学実験など手順に問題があった場合の被害が大きいもの、心理学実験のように調査にあたり嘘をつく必要があるものについては、より厳しいチェックがなされる。

書類はウェブ上で記入する。私の場合は予想される被害は小さい(というよりほとんどない)のでチェックは比較的ゆるいが、それでも全部で167の質問に答えなくてはならない。そのうち34はイエス・ノーで答えられない自由記入形式の問いである。フルブライトの出願時に提出した研究計画をコピーして貼り付けるだけではすまないことが分かり、ちょっと気が重い。

米国らしい設問もあった。インタビューに際して守秘義務を明示すること、「答えたくない質問には答えなくて良い」旨を始めに話しておくことが求められ、それぞれに関する文書を合わせて提出しなくてはならない。インタビュー対象を探す際に何と言うか、メールでインタビュー依頼をする際、使用する文面までチェックされるのには驚いた。英語を解さない人にインタビューする可能性についても尋ねられ、もしそういった可能性がある場合は守秘義務インフォームドコンセントに関する文書をインタビュー対象の母国語でも用意しなくてはならない。

昨日の午後からウェブ上で書類記入を始めた。CEWの客員研究員担当をしているベスが3時間半も横に座ってつきっきりで設問の趣旨を教えてくれて、逐一アドバイスしてくれたが、まだ全然終わっていない。彼女のサポートがなかったら、はっきり言って何が何だか分からなかっただろう。会社を休職して以来、初めてやることが多すぎて10分ほど思考停止に陥った。特集の取材と1人で書いている記事の執筆〆切が重なった上、写真入手など編集作業が上手くいかない、みたいな状況の時と似たような気分で懐かしさを覚える。

ちなみに、大学内には7種類のIRBがあり、そのうち5種類は医学関連の実験手続きについて審査している。私が書類を提出する予定の機関は年間800件の調査や実験について審査し承認を与えている。先日、審査担当者に会ったらすごくいい人で、承認がすんだら私にインタビュー対象を紹介してくれそうなので、まあ、ポジティブに考えることにしよう。