言語ダイバーシティについて考えた。

午前11時から12時30分までCEWのリサーチミーティングに出席。私と同じ客員研究員やリサーチフェロー(任期2年)など、調査業務に携わる12人が集まった。目的はそれぞれが担当するリサーチのテーマや手法、進行状況について情報交換すること。情報源や切り口についてアドバイスしあったり、完成間近の報告書を出席者に配って皆に意見を求める人もいた。IRBの審査を経験したジーン・ウォルトマンは、私に書類記入についてアドバイスしてくれ、「前に私が作った提出書類のコピーをあげるわ。役に立ちそうなフレーズがあったら、使っていいから」と言ってくれた。ものすごく助かる。

こうした会議に出ると、アメリカの大学コミュニティーで何が問題とされているかを垣間見ることが出来て面白い。例えばある客員研究員は、LGBTの大学教職員について話していた。LGBTは、「Lesbian, Gay, Bisexual, Transgender(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)」の略。性的嗜好が理由で差別されることが多いので、女性や人種マイノリティーと同様に配慮が必要な"少数派"と見なされている。

話によると、最近ミシガン大はLGBTにとって居心地が悪くなっているらしい。大学を訴えようとしている人もいると聞いて、少し驚く。こちらに来てからまだ3カ月だが、すでに数人のカミングアウトしたレズビアンに出会った。日本にいる時は「アメリカでは同性愛結婚が政治の争点になる」と聞いてもピンとこなかったが、今では身近な話だと感じる。

ところで、私自身も"アジア人・英語ノンネイティブ"としてマイノリティー意識を日々感じている。例えばこの会議の出席者12人は全員英語ネイティブの女性だった。人種構成は白人7人、アフリカ系3人、ヒスパニック系1人。女性の地位を上げるという共通の関心事を持つ人の集まりなので、話題の7割くらいは理解できるが、当意即妙な受け答えは不可能。東京で働いていた時、年上の男性が大半を占める会議で自分の意見を却下されて頭にきたこともあったけれど、今思えば日本語で好き放題言えたのでラクだった。

「ノンネイティブは自分だけ」という状況でバカと思われないためには、発言時にファクトと数字をちりばめるのが有効だ。例えば日米における既婚男女の家事時間ギャップ。「アメリカでは既婚女性は男性の3倍の時間、家事をしています」、「日本では既婚女性は男性の10倍の時間、家事をしています」といった具合に、分かりやすい数字を紹介すると、感心してもらえる。他には論文から引用したこんなファクト。「夫は、妻の収入が増えるほど家事時間を増やすが、妻の収入が家計の半分以上になると逆に家事時間を減らす。『稼げないのは男らしくない』という感覚を、家事をしないことで補おうとするらしい」。

流暢に話して場をつなぐことが出来ないので、中身のない話をしていると意味が通じなくて「この人は何を言ってるのかなあ」という顔をされてしまう。CEWは全体的にとても親切で、1対1だと皆、ゆっくり分かりやすく話してくれる。会議でも私が発言しやすいよう、司会のジーンは上手に話を振ってくれた。ここまで配慮されてもやはり、フリーの会話は難しい。ましてや配慮のない組織にいるノンネイティブの人は、大変な苦労をしているだろうと思う。

ダイバーシティーの推進に熱心なアメリカでさえ、マイノリティーと言えば女性や人種マイノリティ(黒人)、性的嗜好LGBT)への配慮に留まり、言語に関して問題視する声はほとんど聞かない。第二次大戦後、日本国憲法の草案策定時に男女平等を定めた24条の作成に大きな貢献をしたベアテ・シロタ・ゴードンさんは"THE ONLY WOMAN IN THE ROOM"と題した自伝を書いている。マイノリティへの配慮について声高に話すネイティブたちを見ていると、"I am the only non-native in the room"といつも感じる。