私が会うのは大学コミュニティーのリベラル知識人。9割以上が民主党支持だから、大統領選挙の結果には当然、不満だ。「共和党は選挙を乗っ取った」「メディア操作をした」といった反応が多い。中には「私にも分からない。この国はおかしくなっている」と言う人もいる。日本のリベラルと発想が似ている。野党支持者は皆、同じような考え方をするのだろうか。
異なる見方を示してくれるのが本書『WHAT'S THE MATTER WITH KANSAS?: How conservatives won the heart of America』(Thomas Frank著, Metlopolitan Books, 2004)。伝統的に民主党が強かったカンザス州が赤くなった(共和党支持になった)理由を描く。副題にある通り、保守派がいかにしてアメリカ人の心をつかんだのか分かる。
一番興味深かったのは、経済的に恵まれているとはいえない層が共和党支持に転じた理由。ブッシュ大統領が二世政治家であること、側近と軍事産業とのつながり、富裕層向けの減税などを見ていれば、金持ちがこの政権を支持するのは当然だ。日本にいる間、どうにも理解できなかったのは、低学歴で収入も低い層が自分の利益に反する政治行動を取ることだ。
本書の後半、176〜177ページに答えがあった。クリントン政権の経済政策だ。NAFTA(北米自由貿易協定)を発効させたことに象徴されるように、クリントンの新自由主義的な姿勢は伝統的な民主党のものとは異なっていた。ビジネス界の支持を取り付けるため、経済政策では共和党に歩み寄った。
経済面で保守とリベラルの違いがなくなれば、残るのは社会・文化面での考え方だ。知識人とそうでない人の間には大きな溝があり、同性愛者や人口妊娠中絶、学校教育のあり方をめぐり、かつての民主党支持者は分裂。非知識人は経済的利益を犠牲にしても、社会・文化的な価値観を優先して共和党支持に転じたというわけだ。
これまで聞いたどの解説よりも納得感のある内容だった。ある友人がこんな風に話していた。「二大政党制になると、どちらも有権者の心をつかもうと似たような政策を打ち出す。結果、違いが見えなくなって、どっちも魅力的ではなくなる。だから政治にはあまり興味がない」。日本にいた時、アメリカには強い野党があるから、パワーバランスが取れていると思っていたが、話はそんなに単純ではないようだ。。