私が客員研究員として所属しているCEWの同僚・リリーからメールが回ってきた。「今日の午後4時から連邦政府事務局前でレバノン爆撃反対のデモがあるので参加しませんか」。

会場は私のオフィスから徒歩2分。金曜日だしイスラエルレバノン攻撃はおかしいと思っていたので、仕事を早めに切り上げて見に行くことにした。

4時10分頃、連邦政府事務局の見えるあたりまで行くとすでに200人ほど集まっていた。中東系の若い男性が演説し、「レバノンで人を殺すのをやめろ」、「イスラエル製品をボイコットせよ」と書いたプラカードなどを持つ人があちこちにいる。様子を眺めていた私の横に黒いベンツが停まると、中から母親と子供数人が駆け降りてきた。アメリカで経済的に成功している人がこうして集まってくるのを見ると、彼らの怒りのほどが分かる。

通りを隔てたところには警察官が2,3人。人が集まっているエリアにはホットドッグ売りの屋台まで出ている。しばらく見ているとリリーが演説を始めた。後で聞いてみたら、彼女はこのデモの取りまとめをしている団体のプレジデントを勤めているそうだ。「私はユダヤ人として生まれたけれど、レバノン爆撃はおかしいと思う。この団体には色んな宗教の人がいる。みんな平和を求めているのよ」と話していた。リリーと同じような立場と思われる女性が「ユダヤ人もこの戦争に反対している」というカードを掲げている女性がいた。確かに「ユダヤ人=イスラエル政府=中東でイスラム教徒を殺してる」というイメージを持たれかねない状況だ。まともな人権意識を持っているユダヤ人にとってイスラエル政府のやっていることはえらい迷惑だろう。デモはリリーの団体とAnn Arborのイスラム教徒の団体による共同開催で、スカーフを被った女性は「モスクからこのデモのことを知らされた」と話していた。

演説の後、約1時間かけてダウンタウンを行進した。女性のほとんどは頭にスカーフを被っている。ベビーカーを押したり、小さな子供を連れて参加している人も。時折、通りすぎるクルマが2,3回クラクションを鳴らして応援の意を表す。犬の散歩ついでに途中から参加して途中で帰っていく白人女性もいた。

アメリカは自由の国なのに、皆、こんなおかしな戦争に何も言わない。レバノンで1000人が殺されてそのうち3分の1は子供だというのに、ロンドンでテロ未遂があったらメディアはそればかり報道する。こんな状況におかしいと言えないなら、表現の自由を享受するに値しない」。イスラム教徒の学生がこんな風に話していたのが印象的だった。自分1人の力では何も変えられない、だからデモなんてしたって意味がない---私たちはついこんな風に声を上げることを躊躇してしまいがちだが、それではいけないとあらためて感じた。