メールの過去ログを見ていたら、去年のちょうど今頃フルブライトの面接を受けたことに気づいた。

書類審査合格と面接日程を知らせる手紙が届いたのが10月初旬。私にフルブライト出願を勧めてくれた元上司に報告すると「面接対策の要諦は模擬面接をビデオ録画すること」とアドバイスしてくれた。彼自身10数年前にフルブライトアメリカに留学しており、面接前にビデオ録画をしたという。

ビデオ録画機を持っていなかった私は、インターネットで見つけた日本橋にあるレンタル会社で録画機を借りた。それと並行して想定質問の作成をした。恐らく「なぜそのテーマを選んだのか」「なぜアメリカでリサーチする必要があるか」と聞かれるはずなので回答を英文で書いてみた。

その後、アメリカに住む連れ合いに電話して英語で面接官の役を演じてもらった。「ワークライフバランスならアメリカより北欧の方が進んでいるのでは。それなのになぜアメリカに行くの?」、「その回答は論理的におかしい」といった具合に批判的な質問も織り交ぜてもらった。

面接直前の週末にはアメリカ人の家庭教師に模擬面接をしてもらいビデオで録画した。下手な英語で話す自分の姿をビデオで見るのは恥ずかしかったが、直すべき部分がよく分かったのは有益だった。

あれから1年経つが、面接当日の緊張はまるで昨日のことのように覚えている。30分前に会場に着き場所を確認した後、このまま逃げてしまいたいと思いながら近くのカフェで時間をつぶした。

実際の面接は拍子抜けするほど友好的だった。最初の質問は「この会場までどのくらいかかりましたか?」。緊張をほぐそうとしてくれていることが分かり安心した。次の質問は「アムネスティで何をしていますか?」。履歴書にボランティア活動について書いたのでそれについて聞かれたのだ。

想定外の質問も出たが、むしろそれもプラスに働いたような気がする。例えば「研究テーマは働く女性に関してですが、あなた自身の職場環境はどうですか」と尋ねられた時は、私の上司は皆男性だが女性の部下のスキルアップを応援してくれていると答えた。実際、彼らにフルブライトに出願したいと言ったら二つ返事で推薦状を書いてくれた。「だから私は今、ここで面接を受けているのだ」と結んだ。

イスラム社会の女性についても取材したようですが、彼の地で女性が抑圧されていることをどう考えますか」と聞かれた時は、アフガニスタンで18年間医療支援に携わる医師・中村哲さんへのインタビューを思い出した。中村さんによれば、タリバンは表向きは女性の通学を禁じているが実際は"隠れ学校"がたくさんあるのを黙認しているという。私はどういう形であれ女性の権利を限定することに反対だが、現地特有の文化を尊重する必要もあると思うと答えた。

話している最中に面接官がうなずいたり笑ったりしてくれているのが見えて「言いたいことが伝わったな」と感じた。これらの質問に対する回答は英語で準備していなかったが、何度も繰り返し考え、色々な人と(もちろん日本語で)意見交換もしていたので、自分の下手な英語も気にせず面接官とのやり取りを楽しむことができたように思う。

12月初旬に合格の知らせが来た時は本当に嬉しかった。それと同時に私の伝えたいことを多方面から尋ねてくれ、理解してくれた4人の面接官にお礼を言いたくなった。