ケンタッキー州北東部にある創造博物館(Creation Museum)に行った。


アメリカのキリスト教徒の一部は、ダーウィンの進化論を否定する。彼らは、地球が6000年前、神によって作られたとする創造論(Creationism)を信じている。創造博物館はこの思考枠組みを分かりやすい展示で解説している。今年5月に開館したばかりだ。


創造論によれば、恐竜の絶滅は4800年前に起きた洪水である。また、アダムが神の教えに背いて禁断の果実を食べるという"罪"を犯すまで、地上には争いや苦しみがなかったという。恐竜たちは皆、ベジタリアンで平和に暮らしていた。アダムの"罪"の後、恐竜の一部は肉食と化し殺しあうようになってしまった、と展示には書いてあった。


私たちが学校教育で習ってきた科学的な考え方と真っ向から対立する。実際に見るまではトンデモ展示かと思っていたが、予想外に論理的なので驚いた。丁寧に見れば1時間半から2時間はかかるほど中身が濃い。天地創造の6日間など、聖書の教えの重要な部分を大画面の映画で見せるコーナーもある。


研究者でない一般人は、進化論でも創造論でも好きな方を信じればいいと思う。日常生活にはさしたる影響がないからだ。ただ、創造論が導き出す保守的な価値観には賛成できなかった。現代の諸問題--道徳的腐敗、戦争、病気、飢餓--を全て不信心のせいだと主張するのだ。こうした問題は政治・経済が原因であり、信仰とは何ら関係がない。何でもかんでも道徳を持ち出す保守主義の思考回路はどこの国でも同じである。


一方で感心したのは、ここが家族連れで賑わっていたこと(写真)。日曜の午後だけあって、両親と子供たちでごった返していた。子供は実物大の恐竜模型に座って大はしゃぎ。広い敷地内にはレストランやカフェはもちろん、池や東屋、ピクニックのスペースがある。高速の出口からわずか5分程度で着く博物館は、アメリカ的ファミリー・バリューにぴったりの行楽地である。


ここに集まる人々は、大学町の知識人とは政治的社会的価値観がまるで違う。彼らの幸せそうな様子を見ていて、リベラルが支持を盛り返すのは容易でないと感じた。博物館に着くまでの数時間、高速道路の周囲は畑以外何もなかった。そんな中で唯一、人が集まれるのは教会だ。そこで共有される価値観がいかに強固かは想像に難くない。リベラル知識人は彼らが「ブッシュ政権に騙されている」とみなすが、そんなことはなさそうだ。彼らは彼らなりに自分の信じたように生きているのは見れば分かる。両者の溝は思った以上に深そうだ。