Evangelical Christian(キリスト教保守派)の子供向けキャンプの様子を描いたドキュメンタリー映画『Jesus Camp』を見た。


キリスト教保守派の人々は公立学校で進化論を教えることに反対し、人工妊娠中絶禁止を訴える。信者は全米に3000万人以上いてブッシュ政権の支持基盤になっている。


映画によるとこの宗派の親を持つ子供の75%が学校に通っておらず、自宅で親に勉強を教わるHome Schooling(ホーム・スクーリング)を受けている。映画にはこうした親たちが子供を送り込む宗教色の強いキャンプの様子が描かれている。


かなり異様な光景だった。「ジーザス!」と連呼しながら踊る子供たち。悪魔に見立てた白いマグカップをハンマーで叩き割り、皆で拍手す先生役の女性の説教を聞き感極まって泣き出す子供も続出。中絶反対について教え込むシーンでは、子供たちに胎児の模型をさわらせ口に「LIFE」と書いた赤いテープを貼りつける。


参加者の1人である9歳の少女はこの価値観に染まっているようで、友達とボーリングをしていた折にも、高校生風の女の子に宗教のパンフレットを渡して"布教"していた。子供たちの自宅にもカメラが入る。別の男の子の母親は「進化論は間違っている」と教えていた。


第一印象でぎょっとした後、ふたつのことを考えた。ひとつは取材の手法について。こういう映画に実名入りで自分の子供を出して親は平気なのか。アナーバーはリベラルな街なので、観客はキリスト教保守派のことを論理が破綻した頭のおかしい人だと思っているはず。実際、登場人物が理屈に合わないことを話すたび、客席からは笑い声が聞こえていた。こうなることを承知で出演したのだろうか。


出演者やキリスト教保守派からの批判を上手にかわせるよう、考えた構成になっていた。キャンプと参加者を撮影、インタビューし、数値やファクトの説明が字幕で入るが、あくまで事実をつなぎ合わせることに徹している。ある女の子の母親へのインタビューシーンでは、背景に軍服を着た父親の写真が映し出される。その子供は「パパは軍隊にいます」と書いたTシャツを着て自室でジーザス・ロックに合わせて踊っている。このシーンだけを見れば、彼らがブッシュ大統領の支持基盤になっていることを知る映画の観客たちは「やっぱり」とうなずくことになる。インディーズ系の低予算映画にも関わらず、エンドロールには法律に関する監修者の名前が長く連なっていた。名誉毀損などの訴訟リスクを考えてのことだろう。


もうひとつ感じたのはリベラルと保守層の溝だ。これを映画館で見ている人と、撮影対象は同じアメリカ人ではあるが価値観もライフスタイルも外国人同士以上に異なる。リベラルはこういう人々を「何も分かっていない」とバカにしがちだが、なぜ彼らがあんな風になってしまったのか、真剣に考える必要があると思う。


実際、知り合いのアメリカ人はこうした過激派が幅をきかせていることに苛立っていた。ささやかな対抗手段として先日の中間選挙の折に「私はクリスチャンです。民主主義を信じています」と書いたTシャツを作ったという。キリスト教徒といっても、色んな宗派があり彼らの政治的好みも様々なのだ。