一般化と参考文献、編集者のプロ意識


この本が良いのは、著者を始めとする、第一級の研究者による心理実験に基づいていることだ。各章の記述は全て実験による裏付けがあり、豊富な参考文献が記されている。しかも著者の体験を交えて書いているので、象牙の塔の外で生きている人も共感を持てる。ノンネイティブの私ですら、非常に読みやすく感じたほどの、分かりやすい英語で書いてある。


最近、日本で読書をしていて不満なのは、根拠も記さず「人間は〜」「男は〜」「女は〜」「日本人は〜」と一般化する記述が多すぎることだ。一応はその道の専門家が記す本なら、そのように結論づける理由を書いてほしい。エッセイや小説、自伝を除き、参考文献のない本は精読しても意味がないと感じる。


もちろん、専門書には参考文献が記してあるが、こちらは堅くて高いので気軽には読めない。本書や、"Women don't ask"といった、アメリカの研究者が一般向けに書いた本は、膨大な参考文献を挙げながら、極めて読みやすく書いてあるのが良い。おそらく、優秀な編集者が、学者の文章をガンガン直しているのだろう。クルグマンは"The Great Unraveling"の後書きで、ニューヨークタイムズの彼の連載担当編集者が自分の原稿に赤を入れまくったと記している。相手が偉い学者でも、ひるまず、読者目線で直しまくる編集者の姿勢から、私も学ばなくてはと思う。