特に男の子には。


5年前、米国で共働き子育て夫婦について調査をしました。米国女性はなぜ、日本女性より経済的地位が高く出生率も高いのか。政府の育児支援は貧弱なので、夫の家事育児分担が貢献しているのでは…と考え、文献を読んだりインタビューをしてきた結果、次のことが分かりました。


1)全体的に米国男性の方が日本男性より、考え方が進歩的で行動も伴っている
2)米国では男性の経済力が下がったため、相対的に女性の経済力が上がった

1)は予想通りでしたが、2)はちょっと驚きました。インタビューした多くの男性が「妻の方が収入が高いから」とか「共働きでないと家計がもたないから」と明言したのです。要するに「妻に働いてもらわなきゃいけない→夫も家事をせざるをえない」という構図です。


当時、日本では「ワーク・ライフ・バランス」という言葉が流行り始めていたものの、中身は「働きたい女性のための育児支援」。つまり女性のための福利厚生というイメージでした。日本女性には、「仕事を辞めて主婦になる」という選択肢がある印象で、そういう中「あえて働く」女性たちは、生活のためというより「働きたいから」「自己実現のため」に働くと思われがちでした(実際は家計のために働いていた人もたくさんいましたが、あくまで全体の印象の話です)。


そういう中、ダイバーシティ推進やワーク・ライフ・バランスに関する仕事をする人たちは、共通する課題を抱えていました。それは「女性のための福利厚生という位置づけでは、経営層や管理職が真剣に取り組んでくれない」ということです。加えて、日本の人事制度は「従業員が皆、平等に使えるもの」にするため、企業の経営戦略とかみ合わないこともありました。嫌な表現ですが「制度を手厚くするほど、使ってほしくない人がぶら下がる。どうしたらいいか」という声をよく聞いたものです。


しかし、最近、状況が一変したことを感じます。日本でも、米国と同様に男性の経済力低下が目に見えるようになってきたのです。例えば、こちらブルームバーグの記事。


記事の冒頭には失業中の40代後半男性が登場します。関西在住のこの男性は、長いこと職探しをしていますが、見つかりません。家計を支えるのは妻と娘が働いて得た収入。この記事の面白い点はエピソードをつなぐだけでなく、労働統計を引用しつつ、日本経済の現状をマクロな視点から見せてくれることです。


そのポイントは3つあります。


1)男性労働者を多く抱えてきた製造業や建設業で仕事が減ったこと
2)女性労働者の多い介護職などで市場が拡大していること
3)2)の賃金は1)の6割程度であること

この現象を個人生活に当てはめると、次のことが分かります。


1)片働きで家族を養える男性が減り、
2)女性の収入は増えるけれど、1人で働いて家族を養える人はやはり少ない

こうなると、家族形態も変わってきます。つまり「結婚しない」か「結婚後は共働き」。記事には女性から見た「結婚しない理由」が示されていますが、男性だってこう言いたいはず「自分ひとりで全部払えなんて、無理を言うな」。

このような事情を背景に「婚活」の生みの親、白河桃子さんは最新刊『専業主婦になりたい!?』で「もう結婚では食べられない」と記しています。これを男性側から見れば「もう主婦という職を女性に提供することはできない」ということになるでしょう。


働くのも家族をつくるのもハードルが高くなる中、どうしたらいいのか。私自身、2児の親として真剣に考えざるをえません。すると、やはり子どもには「稼ぐ力」と同時に「家事力」を身につけさせる必要があると思います。前者については、子どもを「グローバル人材」にしなくては、という焦りから、早期に英語教育をしたり留学させる動きを耳にします。それに加えて、男の子も家事力がなくては、(よほど高給取りなら別ですが)パートナーを見つけるのは難しくなるはず。勉強さえ出来ればよいという発想で子育てすると、かえって子どもを不幸にするかもしれません。


今回、紹介したのは1本の記事のみですが、大学や採用担当者や企業の管理職から「優秀な女性が増えたことで、相対的に男性の能力が下がった印象を受ける」という話をよく聞くようになりました。もともと、女性が皆、家庭向きであったわけではなく、男性が皆、稼ぐのに向いていたわけではないのに、性別で役割分担をしていたことに、無理があったのでしょう。雇用主の目が厳しくなる中、男の子にも、多様な生き方の選択肢を作ってあげる必要があります。つまり、一生懸命勉強して働いて稼いでくるだけでなく、家事や育児の労力を提供することで、共に生きる相手を見つけられるように。


幸い、3歳の息子は今のところ、お手伝いが大好き。「お米じゃーじゃー(米とぎ)」や「青くなったか見る(下の子のオムツチェック)」ことを、進んでやってくれます。彼が将来生きる社会を想像する時、より一層、家事育児スキルを養う必要を感じます。