本の趣旨をひとことで言うと、ブログタイトルのようになります。


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近々、邦訳が出ますので、ネタバレにならない程度に内容をご紹介。本書は「分業」「損失回避」「保有効果」「需要と供給」といった、経済学の考え方を応用して、夫婦喧嘩の原因を取り除いてみせます。


例えば、汚いけれど愛着のあるソファを頑として手放さない妻。部屋をすっきりさせたい夫はどう働きかければよいか。例えば、現状の家事分担に不満な夫婦はどうしたら良いか…といった具合です。


経済用語解説の部分は、大学で経済学を専攻していなくても充分に理解できるよう、噛み砕いて書かれています。また、夫婦の事例はコミカルで読みものとして面白いです。


筆者はウォール・ストリート・ジャーナルの編集者とニューヨーク・タイムズの記者。2人とも母親です。日本で大手新聞の編集者や記者が会社の枠を超えて共著で本を書くことはあまり考えられないので、これだけでもすごいことではないでしょうか。


きわめて読みやすく書かれていますが、巻末まで目を通すと、一流の経済学者に取材を重ねたことが分かります。例えば、シカゴ大学のゲイリー・ベッカー氏。ノーベル経済学賞受賞者で、著作の"A Treatise on the Family"は経済学者だけでなく社会学者の論文でも頻繁に参照されています。カリフォルニア工科大学のコリン・カメレール氏。行動経済学の大御所で日本では大和証券のテレビコマーシャルに出ていたこともあります。ハーバード大学労働経済学者クラウディア・ゴールディン氏などなど。


夫婦関係の分析については独自データを集めており、計2000人以上に取材したそうです。


密度の濃い取材に基づき、きわめて分かりやすく書かれている本書にひとつだけ注文をつけるとしたら、夫婦の権力関係やジェンダー規範の問題を考慮に入れていないように見えるところです。


例えば、家事を完全に平等に分担している夫婦の不満について。この夫婦は平等主義で、すべての家事を半々に分担していました。周囲からは「進歩的だ!」と称賛されているのに、不満が募る2人。解決策として提示されるのは「お互いが得意なことをやる=分業する」ということ。“平等”に固執するあまり、好きでもないことをやるより、仕事を分けて好きなことをやったほうがいい、というわけです。


でも…と私は思いました。夫婦の家事分担の本質的な問題は「何をやるか」という質の問題ではなく「どのくらいやるか」という量の問題ではないでしょうか。少なくとも私の知る限り、どんな統計を見ても、男性の方が女性より家事時間は短いのです。たとえ妻の方が夫より収入が多くても、それは変わりません。


同じような疑問は、専業主婦家庭における問題を扱った事例にも感じました。3人の子どもを育てる主婦が家事に疲れ果ててイライラしています。この夫婦の場合、夫の収入の方が妻のそれをはるかに上回るため、妻が働きに出て夫が主夫になる、という選択肢は現実的ではありません。


提示される解決策は「家事労働市場を考える」というもの。妻が担う家事に対し、何らかの対価が支払われるべきだというのです。妻は週に1回、友人とお茶を飲んだり映画を見ること(を週6日の家事育児労働の報酬として受け入れること)に合意します。夫は仕事が休みの日に週1回、家事と育児をすることで、家庭円満になる…という結論でした。


けれど…と私は思いました。世の専業主婦は果たして週1日の休日などもらえるのだろうか? そんな交渉が可能な“強い主婦”は少数ではないか? やはり経済力のある夫の方が夫婦関係においても権力を持っていて「週1日、家事と育児をしてほしい」などという要求を妻がするのは難しいのでは?


その辺りの疑問を、この本を勧めてくれた夫(経済学者です)にぶつけてみました。その答えは、本の感想と離れるので、またあらためて書きたいと思います。


いずれにしても、経済学の基本的なアイデアが実生活にどう応用できるか分かり面白いので、経済学部の1〜2年生にはぜひ読んでほしいです。また、夫婦の問題を女性差別という視点「以外から」考えてみたい人にもお勧めの本です。