今日の夕方4時から、「我々はアルカイダとの戦いに勝っているのか?」と題した講演を聞いた。

スピーカーは歴史学部ジュアン・R・I・コール教授。近代中東・南アジア史が専門で、専門書や学術論文の執筆だけでなくメディアへの登場も多い。イラク情勢に関して日本政府にアドバイスをしたこともあるという。会場には数百人が集まっており近隣住民らしき老夫婦の姿もたくさん見かけた。

一般人にも分かりやすく工夫された講演だった。冒頭で北アフリカ、ヨーロッパ、ロシアから中国西部とインドネシアを含む世界地図を見せ、イスラム教徒がいかに広範囲に住んでいるか示した。「テロとの戦い」の名の下に彼ら全てを敵に回すのが非現実的であることが直感的に理解できる。「あるテロリストが特定の国の出身だったからといって、その国全体をテロリスト呼ばわりするのは、KKKと米国全体を結びつけるのと同じように間違っている」といった具合に話は続く。

話がリベラル知識人にありがちな現政権批判で終わらないところが面白かった。パキスタンにおける対テロ戦争は成功だった、アフガン空爆には一定の成果があった、としながらも「イスラム」をひとくくりにして悪者扱いする乱暴な議論には疑問を呈する。イスラム教国を「世俗的な国家と保守的な宗教国家」、「反米と親米」に色分けした地図(写真)を見せてくれたのはとても説得力があった。数あるイスラム教徒の多い国々の中で、反米はシリア、スーダン、イランくらいのもので、これらの国々も時と場合によってはアメリカに協力してきたという事例を挙げていく。

最後に紹介した親米イスラム教国における世論調査も興味深かった。いずれの国でも、アフガン空爆イラク戦争の後にアメリカ支持は激減した。ただしインドネシアでは2005年に支持率が回復している。インド洋の津波被害に際しアメリカが行った支援が好意的に受け止められたのだろうとコール教授は解釈する。イラク戦争反対派がまるで念仏のように唱えている「ブッシュと共和党は馬鹿だ、恥知らずだ」という批判をいいかげん聞き飽きた感があるこの頃、こういうファクトに基づいた話はとても説得力があると思った。ちなみに講演はこのサイトから聴けます

この講義の主催者はミシガン大学公共政策大学院。資金は1979年にミシガン大を卒業したジョシュ・ローゼンタールさんの家族の寄付でまかなわれている。彼は2001年9月11日にワールド・トレード・センターのフィデュシャリー・トラスト社で働いていて亡くなった。

大学卒業後は金融業界で働いてきたが、ずっと公共政策に関心を持ち続けてきたという故人の気持ちを汲んで遺族が学部に寄付したのだという。今日の講演会ではお母さんが印象的な挨拶をしていた。「私は正しい知識とバランスの取れた議論を信じるし、そういうことをするのは大学の仕事だと思う。今日は9.11のテロから5年目であるだけでなく、非暴力不服従で知られるインドのガンジーの運動から100年目でもあります」。