午後3時から、バドワイザーの製造元・アンハイザーブッシュ(Anheuser-Busch International Inc.)のマーチン・カーガス政府業務担当副社長の講演を聞いた。

彼はミシガン大学の卒業生。今日は自然資源学部(School of Natural Resources)の招きで訪れ「ビールと環境:より良い未来を醸造すること」というテーマで話をした。

ビール会社が環境に与える負荷は「エネルギーと水の問題が一番大きい」(カーガス副社長・以下同)。そのため、同社はこの2つのテーマに集中して取り組んでいる。水質浄化に始まり原材料となる麦芽を飼料転用し、空き缶リサイクルを手がける別会社も作った。企業の社会貢献についても水や自然の保護にフォーカスしている。保有する公園には6万頭の動物がおり、絶滅の危機に瀕している動物が50種類以上保護されている。

「私も学生時代にはアメリカ企業社会は"evil(悪)" と思っていました。しかし最近は企業も真剣に環境問題に取り組んでいる。企業社会もソリューションを提供できると考えています」というカーガス副社長の言葉には共感を覚えた。

質疑応答の時に「なぜ、企業が真剣に環境問題に取り組むようになったのか。数年前まで環境対応といえば"コスト"としか考えられていなかったように思うが」と尋ねてみた。回答は明快で「ステークホルダー(利害関係者)の意識が変わった。消費者、株主、従業員、規制当局が環境問題への取り組みを求めるようになった。また、長期的に見れば環境に配慮した製造の仕組みは利益につながる」。

恐らく、アメリカのグローバル企業は皆、同じように答えるだろう。環境問題への配慮に欠ける企業の失敗事例を見てきたからだ。例えばコカ・コーラ社はインドでの環境汚染やコロンビアのボトリング工場における人権侵害の道義的責任を問われ、世界100以上の大学で不買運動にあった。昨年はNY大やミシガン大で、キャンパスから自販機や製品が撤去される事態にまで発展した。

こうした動きは「製造過程で悪事に関わったかもしれない製品は買いたくない」という消費者の気持ちの表れだ。逆に言えば、環境問題に積極的に関わることは、マーケティング上の重要な戦略なのだ。

例えばアンハイザーブッシュはNGOとの協力体制を築き、それをビジネスに還元する仕組みを作った。WWFナショナル・ジオグラフィックを始めとする10以上の団体に寄付をしたり共同イベントを開催している。イベントは製品ブランド別に企画されている。例えばバドワイザーなら「力強く男性的」なイメージのハンティングに関するもの、若者向けブランドなら「健康」イメージを出せるトレッキングの企画をNGOと共同で行う。

このように対抗勢力をも取り込む同社のやり方を「あざとい」と解釈することもできるが、私はやはり前向きに評価したい。