米メリーランド大学の研究者が、最近40年のアメリカ人の日常生活の変化を分析している。

Changing Rhythms of American Family Life (Rose Series in Sociology.)

Changing Rhythms of American Family Life (Rose Series in Sociology.)

1965年から2000年まで10年ごとに、労働、家事、育児、睡眠、自由時間の時系列変化を示しているのが興味深い。データは既婚男性、既婚女性とシングルマザーに分けて比較している。


この40年でアメリカの家族形態は大きく変わった。専業主婦が減り外で働く女性やシングルマザーが増えた。こうした変化に対応し男性の生活時間にも大きな変化が生まれている。1985年を境に父親の家事時間が倍増したのだ(p.93)。


これまでの常識を覆すデータも出ている。一般に働く母親が増えると子供にかける時間は減ることが予想される。ところが、2000年の働く母親が子供と過ごす時間は1975年の働く母親に比べて長い。実際、2000年の働く母親は1975年の専業主婦とほぼ同じ時間を育児に費やしている(p.78)。アメリカでも依然として「母親が不在だと子供に悪影響を及ぼす」といった類の言説がある。そのため、女性の社会進出がすすんでも子供と過ごす時間は減らないことを示したこの本は、リベラル派には心強いファクトを示したとして歓迎された。


一方で、既存のリベラル知識人とは違うスタンスを取る部分もある。男女の労働時間に関する分析だ。Arlie Hochschild『Second Shift』をはじめとした社会学系の本や論文は、働く女性が過重労働であることを前提にしている。外で働いて稼いでいるのに家事や育児にも責任を持つことを要求されるためだ。この本はこの常識を覆すデータを示す。外で働く時間と家事育児時間を合計して「労働時間」とみなすと、既婚男女の労働時間は変わらないことをデータで示した(p.55)。男女どちらも週約64時間を労働に充てている。2000年時点で母親は父親の倍の時間、育児に関わるルーティンワークをしており、父親は母親と同じ長さの時間だけ、遊んだり何か教えるといった形で子供と関わっているという(p.67)。


両親の過半数は「子供はもっと親と一緒に過ごしたがっている」と思っているが、実際は子供の10数%しかそのように感じていないそうだ。その代わり「親がもっと疲れておらず、ストレスを感じないでいてほしい」と思っている子供が約3割に達しているとの(p.115)解説も興味深かった。