先日学長室を占拠して逮捕された学生が主催したミーティング(写真)に行った。


まずは学生たちが搾取工場(=Sweatshop:スウェットショップ)の実態と大学への要求を説明。予想通り、実態はひどい。労働者のパスポートを取り上げたり、児童労働をさせたり、組合を作ろうとした人々を解雇している。それに対し、学生たちは生活賃金や週48時間勤務など望ましい労働条件を提示。大学ロゴ入り製品の製造業者に、これらの基準を満たすことを求めるよう、大学に要求している。


生活賃金といってもインドネシアで時給1ドル50セント強程度。労働時間の基準にしても、学生たちが無理を言っているようには見えない。


不思議なのはミシガン大学長が学生たちの要求を無視し続けていることだ。メアリー・スー・コールマン学長はかなりリベラルで、入学審査に際し少数人種(=アフリカ系)を優遇するアファーマティブアクションを強く支持している。昨年秋、アファーマティブアクションを禁じる州法改正案が通った翌日には公開講演を開き「大学は(人種の)多様性確保を引き続き推進する」と訴えた。


アファーマティブアクションへの強い関与と、スウェットショップへの無関心さ。学長の態度のコントラストが解せなかった。不公平の是正を考えるなら、入学優遇より"生きられる賃金"の方が優先順位は高いはず。リベラル学長といっても、所詮、アメリカ人のことしか考えていないのか---。


逮捕された学生の1人と話して疑問が解けた。ある巨大アパレルメーカーが大学のスポーツチームのユニフォームを寄付している。このメーカーは大学のライセンス商品のデザインとマーケティングを手がけている。そこから下請け、孫請けとアウトソーシングされた先でミシガン大のロゴ入りTシャツやトレーナーなどが作られているのだ。


以前、大学がロゴ入り製品を作っている労働者の賃金を公開すると決めたところ、このメーカーは大学との契約を打ち切ったそうだ。すると、ライバルメーカーが、賃金公開を了承した上で大学と新規契約を結んだ。数カ月後に件のメーカーが大学と再契約を結びに来た---。このメーカーは、今回のような学生の要求について大学がどう対応するか"アドバイス"をしているらしい。


契約を打ち切ってまで賃金公開を嫌ったことから、この企業の製品は搾取工場からきているのだろう。名前はあえて書かないが、かつて反搾取工場キャンペーンのターゲットになったあの企業だ。その後元NGOのスタッフを雇い"良き企業市民"になったのかと思ったが、そう簡単ではなさそうだ。人種問題ではリベラルな大学当局が、経済問題では弱腰だと分かったのはひとつの発見である。


今後どうするのか、学生たちには独自の考えがあると思うけれど、私なら件のメーカーが大学にいくら寄付しているのか調べる。その上で上記の話の裏を取り、この企業に代わる寄付者を募る。一社では無理でも、数社集まれば寄付額はカバーできるはずだ。たとえばミシガンのフットボールは全米でも1位2位を争う強さで同窓生のファンも多い。件の企業はこのユニフォームを寄付しているのかもしれないが、搾取工場で作られたユニフォームを使っていることがメディアに取りざたされたら、卒業生は恥ずかしいだろう。ここから先はPR戦略とファンドレイジングの問題になる。