米国女性は様々な分野に進出している。


先月、ペンシルバニアの会議で会った米陸軍のマーク・リンドン大佐が「米陸軍における女性の配属先変更の歴史とその影響」と題した論文を送ってくれた。面白いので日本の知人に紹介していいかと尋ねたら「軍や政府の公式見解ではなく、私の個人的な意見だと明記してくれればいいですよ」とのこと。


1)陸軍の女性政策とその歴史
米陸軍編成時の1775年から女性は軍隊で働いていた。1898年に従軍看護婦部隊が設立される。第一次大戦中、管理部門で人員不足となったが、陸軍長官は女性の採用を拒んだ。第二次大戦の開戦後、陸軍婦人部隊が開設され、終戦時点では10万人の女性がここで働いていたという。陸軍婦人部隊は男女同一賃金を定めていたが、同部隊設立後に出来た規制で、女性は実戦演習や武器を持って戦う任務からは除外された。冷戦下では特段の変化がなかったが、1992年と94年の規則改正で女性は陸軍における全ての任務に就くことが可能になった。ただ、地上における戦闘行為を主な任務にする部隊への配属はできなかったそうだ。


2)女性の増加
1983年のグレナダ侵攻時は179人の女性兵士が配備された。全体に占める割合は2%。1989年のパナマ侵攻では4%、2005年には常時勤務部隊の14%を女性が占めている。


3)世論の変化
米陸軍における女性の進出を支えているのは世論だ。ギャロップ社の調査によれば、女性が兵役に就くことに賛成する人は1979年には43%だったが、翌1980年には51%に増えた。2003年には、8割の人が女性も男性と同様の軍務に就いてよいと答えている。また、2005年の調査によれば、女性をイラクなどどこにでも派遣して良いと答える人が72%に達したという。

直接戦闘に加わらないとはいえ、警備などで戦闘地域に赴くようになれば戦死者も増える。論文では米国の世論が女性の戦死に寛容になっている事実も示される。2006年12月時点でイラクアフガニスタンにおける女性戦死者の割合は2%だ。

4)採用戦略の視点
リンドン大佐は女性の配属先を今後も広げていくべきと提言している。理由は人材確保のためだ。米国男性の17歳〜24歳人口は1540万人。そのうち220万人が、高卒資格を備え、軍隊に入るのに必要な試験に合格すると推定される。だが、高卒者のうち67%が大学に進学するため、実際に入隊する若い男性はもっと少ない。優秀な人材確保のため、歩兵部隊など一部を除く全ての部門で女性にも門戸を開くべきという。

私が面白いと感じたのは、論文で使われるフレーズである。"...it will send a message to the American public that the Army is truly an equal opportunity employer"や"...in order to allow it to better compete for quality recruits"といった表現は、企業の人材戦略と発想が同じであることを示している。


軍隊という最もマッチョな業界でさえ、必要とあらば女を味方につけていく。米国の懐の深さと、ダイバーシティの浸透をあらためて実感した。