親切でモラルの高い人々が多く、とても楽しかった中でひとつだけ違和感を覚えたことがある。


街中いたるところに大統領の写真と肖像画が飾ってあったこと。日本で言えば立ち食い蕎麦屋のような、庶民的なサンドイッチ屋にさえ、必ず大統領の絵か写真がかけてあるのだ。


大統領邸は海辺の見晴らしの良い場所(写真右奥の半島。この方向からの撮影は全く問題ない)にあり、敷地を囲う壁が延々何キロも続いている。敷地は観光客がよく訪れる遺跡に隣接していて、カメラを大統領邸に向けることは禁止されている。


こんな権威主義を、観光客にあえて知らしめるのは違和感がある。遺跡はずっと前からそこにあるのだから、安全を考えるなら大統領が別の場所に住むか、遺跡そのものを見学禁止にすればいい。また、国民の大半は家電製品や高速インターネットを使ってもいないのに、大統領邸の豪華さは不公平に映った。


気になったので米国に戻ってから調べてみたところ、人権状況には大いに問題があることが分かった。ル・モンド紙の和訳記事アムネスティ・インターナショナルの報告から、報道の自由がないこと、大統領批判はおろか、対立候補として出馬表明しただけで親戚まで投獄されること、拷問や囚人への虐待が日常化していることを知った。


あの違和感はやはり当たっていたのだな、と残念な気持ちになると共に、事前情報をほとんど知らずに行ってよかったようにも思った。こんなことを知っていたら、親切な人々の笑顔の向こうに何があるのか気になって仕方なかったはずなので。