著者のベロニカ・チャンバースさんはNew York Times Magazineの編集者を経て、現在はフリージャーナリストとして活躍する。


Japan Societyの奨学金を得て数カ月日本に滞在、その後、追加取材と合わせて75人の日本人にインタビューし、日本女性の最新事情を綴った。海外の新聞や雑誌で、これまでも日本女性論は色々と目にしてきたが、私がいちばん好感を持ったのはこの本。ありがちな「日本は保守的、女性は被害者」に終わっていない。


文章からは丁寧な取材と日本文化へのリスペクトが伝わってくる。コスプレする女性たちの気持ちを推し量ってみたり、自ら舞妓のメイクと着付けを体験しその時の気持ちを詳しく書いたり。札幌でDJをする女性に会った時は、事前に東京で聞いていた地方都市への偏見と実際に目にした札幌の街の魅力を上手く対比して描いている。


批判の中でも政治の保守性に関するものは的を射ている。要約すると、国会議員は高齢男性で占められているから、彼らの意見のみが議論される、ということ。全く同感だ。雅子妃がクリントン大統領(当時)と会った時、通訳を介さず直接英語で話しかけたから批判された、との記述には呆れた。バカバカしいにもほどがある。


一方で共感できなかったのは、日本男性の保守性を指摘する女性たち数人が登場する章。書き方の問題かもしれないが、当事者の女性たちにも何か問題があって、だからあまり良い男性と出会えないだけなのではと思わされた。みんな何だか偉そうなのだ。「外国人ジャーナリストの取材を喜んで受ける人たち」ばかりを集めたことで生じるサンプリングバイアスが、とても悪い形で出ている。


この章を読んだときは「ああ、この本もありがちな日本男性&社会批判か」と思ったのだが、後の方には真っ当な男性たちも登場する。家事と育児を担う男性は、学校で他の保護者から受ける差別について語った。また男性だけが経済的責任を負うのはおかしいのでは、といった指摘がインタビューと地の文両方に出てきたのは、さすがアメリカ女性という感じ。


残念だったのは固有名詞の誤植とファクトの間違いがあったこと。私もお世話になっている取材先の社長さんの名前の綴りが何度か違って書かれていた。日本に産休を定めた法律がや公的託児所がないという記述(p.177とp.192)は明らかな誤りである。この本の面白さを減じるものではないが、日本語ネイティブが一度、ゲラを読んだ方がよかったと思う。


最も共感したのは来日後、ホームシックにかかった著者が滞在していた六本木のI-Houseでベルボーイを飲みに誘うエピソード。OKしてもらうために英会話と日本語をお互いに教え合おうと声をかける。友人数人と一緒にやってきた彼らの本音トークを聞くところから、著者が本当の日本に触れ始める。外国暮らしで寂しさを感じない人はいないが、現地で友達を作れるかどうかでその先の充実感は変わってくる。著者はこうした心境の変化を実に上手く描いているから「友達が出来て本当に良かった」と読んでいるこちらも嬉しくなる。後日、「ベルボーイと親しくするのはやめてください」と言うI-Houseの管理職の堅さが面白い。


とても楽しい本なのでおすすめ。自虐日本人論に飽きた人はぜひ。