1)データがしっかりしていること
ジェンダー格差を示す様々なデータ(賃金、家事時間、学歴等々)は、政府統計に加えて一級の学術論文から引用されている。特に男女の行動特性を示す実験データが豊富に示されることで、今もなお、学歴や能力をコントロールしても、男性より女性の方が遠慮しがちであることが分かる。
ここで重要なのはコントロールされたデータを使っていること。単純に男女差の存在に言及したところで「学歴や能力が違うのだから当たり前だ」と反論されることが多いが、著者はその点をきちんと抑えてデータを提示している。
本業が忙しい中、社会科学系の論文を読みこなして引用しているのは、編集者がしっかりしていたのか著者自身が文献調査の労を惜しまなかったのか。いずれにしても成功した経営者の自伝エピソード集とは全く異なる中身の詰まった本だ。
2)事例は実名でリーダーの話
先に触れたメグ・ホイットマンの話だけでなく、良い話も悪い話も、基本的には実名・社名入りで書かれている。マッキンゼーの元上司は(もう会社にいないかもしれないけれど)、この本を見て青くなっただろうし、彼女がクライアントのセクハラまがいの言動を訴えた際、親身になった上司は、逆に周囲の評価が上がっただろう。
良い事例では、元副大統領のアドバイザーが10年以上の主婦経験を持つ人であるといった話が、本人へのメール取材をもとに書かれていること。著者は高い社会的地位を生かして、女性リーダーに直に話を聞き、それを紹介している。
3)自己批判的な視点
私自身が読んでいて、一番興味深く感じたのは、サンドバーグ自身の、フェミニズムに対する見方の変遷が率直に書かれていることだ。
これまで著者は、女性差別について言及するのは、特別待遇を求めているようでイヤだった、という。もっとはっきり言うと、女性の権利を声高に主張するとモテないフェミニストになってしまうし、仕事仲間からも敬遠される。
そのため、明らかに差別的な処遇を受けた際も、文句を言うのではなく我慢して一生懸命働くという対処をしてきたそうだ。
本書の多くは、女性にもっと自己主張しろと勧めることにページを割いている。勇気を持って声を上げる必要があるのはサンドバーグ自身も同様であり、こういう本を書くことが挑戦である、と。
これは、世界でもっとも注目される企業の女性経営者だから書けた本である。一方、そこまで高い地位に上り詰めるまで、働く女性が不当なことを不当だと言えなかったアメリカ企業の文化は、相当に厳しいのだろう。
もちろん、日本のビジネスリーダーが、本書から大いに学び反省すべきであることは言うまでもない。日本にはサンドバーグのような立場の40代現役子育て世代は、女性どころか男性ですら少ないのだから。