女性はただ思い切り働ければよいというものではない

最後に、私がこの本を素晴らしいと思った一番の理由は、著者が長い育児休業を取ったからとか、男性なのに仕事より家庭を優先したから…ではありません。仕事と育児と夫婦のあり方、そういうものへの理解が細部にわたっているからです。

育児休業を取得している間、著者一家は妻の職場の近くに住んでいました。高い家賃を払って職住近接にしたのは、授乳のためだったといいます。著者は毎日2回、赤ちゃんを連れて授乳のため、妻の職場に行きました。ここまで色んなことを「分かっている」著者ですから、単純な母乳礼賛が理由ではありません。ミルクでも冷凍母乳でもいいと分かっていながら、授乳タイムをもうけたのは、妻と子どもの時間を確保するためだったといいます。


夫が家事育児を担うことでキャリアに打ち込める女性が、では、果たして何も失っていないかというと「そんなことはないと思う」と著者は書きます。仕事を続け家族を養うため稼ぐ責任を引き受ける母親が、代わりにあきらめるのは子どもとの時間である、と。


私たち一家も、授乳の都合を考えて私の職場へのアクセスの良い場所に住んでいるので、この下りは非常に納得しました。男女平等なモノの見方、行動様式を当たり前のこととして受け止め、実践しているからこそ分かるのだと思う。女性は思い切り働ければハッピーといった単純な発想(日本の現状ではそれを実現することすら難しいですが)の、十歩先を行く、著者の優しく自然な発想にとても共感しました。