この調査は、仕事と育児の両立支援制度や利用状況、管理職に占める女性比率などを元に、働く母親にとって良い会社を選ぶものです。毎年行われ、今年で30回目を迎えました。
業界別(ママ弁護士が働きやすい法律事務所)、職種別(時給で働くママを応援する会社)の調査もあって面白いのです。
今回の調査結果はこちらから見ることができます。
調査の結果概要は、アメリカの企業社会における男女平等の浸透度を端的に示しています。受賞した企業には3つの特徴があるそうです。
1)平均して8週間の100%有給の産休を提供しており、
2)全従業員の4分の3がフレックスタイムを利用していて、
3)前年の採用の半分を女性が占めているそうです。
1)について、誤解を避けるため説明します。アメリカは先進国では唯一、全国レベルで有給の産休制度を持たない国です。アメリカ政府の育児支援は先進国の中では最低レベルなので、各雇用主が独自の制度で子育て支援をすることになります。従って、日本企業と比べてアメリカ企業が優れているわけではありません。
私が注目しているのは、2)のフレックス活用です。この数字から分かるように、アメリカの良い企業で、フレックスは「ママのため」に留まりません。パパはもちろん、色々な理由で柔軟に働きたい人が、在宅勤務やパート勤務(短時間正社員)をしています。遠距離通勤を避けたり、離れて暮らす家族の元で過ごす週末を長く確保したりするため、週4日勤務で集中的に働く人もいます。いずれにしても「毎日、決まった時刻に決まった場所へ行って、最低8時間、そこで働く」のではない、柔軟な働き方が性別・家族形態を問わず、浸透しているのです。
2006〜2007年に、フルブライトでアメリカへ留学した際、キャリア夫婦の仕事と子育ての両立について、調べました。子どもを2人以上育てながら、管理職・専門職として働く母とその配偶者にインタビューしたところ、多くの人がフレックス勤務をしていることに気づきました。インタビューに応えてくれた人たちは、母親だけでなく父親も在宅勤務や短時間勤務制度を使っていました。日本で馴染みのある表現を使えば「女性活用と育児支援を同時に行うためには、柔軟な勤き方が不可欠」ということになります。
そして、アメリカで私の研究テーマを話すと「フレックスのことね」という答えが返ってきたことが、印象に残っています。日本では、働く親の課題といえば「育児支援」と思われがちですが、高等教育を受けた子育てカップルにとって必要なのは「就労支援」であり、そのためには、柔軟な働き方を認める必要があるのです。
私自身、日本で16年間会社勤めを経験し、フレックス勤務の利点を享受しました。雑誌記者の仕事は業務範囲が明確なので、締切に間に合いさえすれば、どこで仕事をしていても、スケジュールをどう組んでも、誰にも文句を言われることはありませんでした。時には夜中に取材をすることもありましたし、夜泣きする赤ん坊をおんぶしながら、自宅のキッチンカウンターでPCのキーボードをたたくこともありました。その一方、子どもの行事などで、日中、数時間、仕事を抜けtも問題はありませんでした。〆切前に集中して原稿を書きたい時は「自宅で作業します」と同僚に断っておけば、電話や会議に中断されず、12時間ぶっ続けで執筆に専念できました。
子育てとの両立はもちろん、生産性を最大化する上で、フレックスは欠かせない…と思っていたのですが、取材その他で事業会社のダイバーシティ推進の内情に触れて驚きました。日本の企業は、在宅勤務や直行直帰などに対するアレルギーが非常に強いのです。業種を問わず、フレックスを導入しない、活用しない理由(私から見ると言い訳)は山のようにありました。例えば、こんな具合でs。
「フレックス勤務できない部署との不公平感が出てしまう」
→業務内容が違えば、働き方が違うのも当然です。そもそも、こういう部分で公平感を追求する必要が、果たしてあるのでしょうか。もっと他に、現存する差別や不平等で是正すべきことがあるのに、そういう問題は見ようとしない。悪平等の結果、何が得られるのか不明確です。こういう意見を、役員から聞くと心底がっかりします。ある大企業では、R&D部門ではフレックス勤務を認められていたのに、他の部署から「ずるい」という声を受けて、使えなくなってしまった、と言います。あまりに生産性が低い発想ですし、人材獲得競争で負けてしまいそうです。
「フレックスを認めたら皆が出勤しなくなってしまい効率が落ちた」
→本質的な問題は、フレックスではなく、業務内容が不明確なことでしょう。私は雑誌記者時代、実質的にはフルフレックスでしたが、打ち合わせや、締切時期で密なやり取りが必要な時期は、朝から晩まで会社にいました。仕事の目的、プロセスを本人がよく理解していれば、いつ、どこで何をすれば良いか判断できるはずです。
「規制当局の命令で在宅仕事ができない」
→これは金融関連の企業でよく聞く話です。一方で従業員に様子を聞くと、個人のipadを使ってメールチェックしている、という話もあり、何のための規制かよく分かりません。当局(金融庁でしょうか)は色々な理屈をこねると思いますが、アメリカでは、もっと高度な機密情報を扱う業務で在宅勤務が活用されている事例を聞いたので、日本の行政の話は言い訳にしか聞こえないのです。
「労務管理ができない」
→これは人事や組合からよく聞く話です。背景には、個人が弱い日本の問題があると思います。強いられた持ち帰り残業なのか、自発的な在宅勤務なのか分からない、と言いたいのでしょう。
フレックスに反対したり、利用に細かいルールをつけようとする日本企業(役員、管理職、人事、組合等々)の言い訳を聞いていると、うんざりした気分になります。女性活用や社員の自由な発想に基づくイノベーションの必要性を語る一方で、現状を変えたくない「気持ち」を重視していることが分かるからです。
弱い個人を強くするため、市場や法制度を活性化するのではなく、個人を時間と場所に縛り付けようとする発想は、もはや時代遅れです。こんなことを続けていたら、生産性は上がらない、と思いますし、私はフレックスを嫌がる企業の女性活用は偽物だと思っています。