本の筆者について


問題は約5年前に遡ります。スローター教授は、大学を休職し、国務省で政策企画本部長を務めていました。このポストでは女性初だったそうです。夫の仕事や子ども達の教育環境を考え、単身赴任することになります。平日はワシントンDCでひとり暮らし、週末はニュージャージーの家族のもとへ帰る生活。日本の会社員家庭でもよくある風景と言えますが、違うのは、夫が子ども達の世話を一手に引き受けていたことです。


夫婦そろって名門大学の教授であり、夫がメインで子育てすることをいとわない…。日本の基準では、夢みたいな話だと思います。アメリカ基準でも、かなり恵まれた状況にあったことは、間違いありません。本書には「35歳で教授(終身在職権付)、42歳で学部長になったから、ワーク・ライフ・バランスを取りやすかった。早くボスになるほど、スケジュールを自分でコントロールできる」(18ページ)と書かれています。ここまでは、勝ち組の論理と言えるでしょう。


そんな、全てを手に入れたように見える女性が、両立の壁にぶつかります。10代の息子さんが学校で問題を起こし、停学になったのです。「危機に直面して一番大事なものが分かった」(15ページ)著者は、国務省の仕事を辞めて大学に戻ることを決意します。プリンストン大学の教授は大変プレステージが高い職ですが「学部長の時も18時には帰宅し、子ども優先が可能だった」(17ページ)。これと比較すると、働き方に柔軟性がなく、拘束時間が長い「政府高官と親業を自分の望む形で続けるのは無理」(16ページ)と判断したのです。


スローター教授が自身の経験を書いた「アトランティック」の記事、ウェブ版は5日で40万、1周間で100万、最終的には270万のアクセスがあった、と推定されています。記事で伝えたかったのは「本当の男女平等とはどういうことか」でしたが「批判もたくさん受けた」(19ページ)中で「男女ともに、成功の定義を変える必要がある(20ページ)と考えたことが、本書執筆の動機ということです。


長くなったので、いったん、ここで区切ります。