複数の場所で書いたり話したりしている通り、20年前に新卒で就職した時、1カ月間有効の定期券を買いました。当時住んでいたJR中央線国立駅から勤務先のあった地下鉄永田町駅まで。


 入社してすぐ、たぶん新入社員研修が終わる頃、会社の人事部が半年分の定期を支給してくれた時、不思議に思いながらそれを見たのを覚えています。たぶん、私は1カ月で辞めるだろうから、これはいらないな、もったいないな、と。


 思いがけず、16年も働きました。2回の産休育休と1回の海外留学休暇を経て、続けられたのは、なぜだったのだろう。


 数日前、ふと思い立って、子どもが赤ちゃんの頃の写真をパソコンの壁紙にしてみました。まだ歩かないため、足がぷにゃぷにゃの赤ちゃん。この可愛い時期に預けて働こうと思ったのは、なぜだったのか。


 下の子のオムツが取れて「赤ちゃん」ではなくなり、もうあと1年で学校に入る、という状況の今、我が家に赤ちゃんはいません。そうなると、道端で、園で、出かけた先で見かける赤ちゃんは可愛くてしかたなくて、仕事で出かけたはずでも、赤ちゃんが気になります。赤ちゃんを眺めていると、可愛くて尊くて自然に涙が出てきます。


 そういえば、息子が赤ちゃんだった頃、ベビーカーに乗せて散歩していると、向こうからおばあさんが走ってきて、おがむようにして「可愛いわねえ」と言われたことがあります。少し大きな子どもを持つ友人たちは、私が赤ん坊連れで出かけると、決まって抱っこしてくれ、あやしてくれました。「ありがとう」と言うと決まって「いいの、いいの、抱っこしたいから」という返事がかえってきました。その気持ちが今はよく分かります。


 もし、私が今のような心持であったなら、0歳の子どもを預けて会社に戻ろうとは思わなかったかもしれません。


 私の場合、0歳復帰をしたのは保活のための最適戦略でした。混んでいるエレベーターで目的地は昇りにあるけれど、その階で待っていても到底乗れそうにないから、いったん下りのエレベーターに乗る、みたいなものだった。


 ちょうどアメリカ留学から戻って1年目で、向こうの総合職・専門職女性は0歳復帰が当たり前だったし、保育園が見つからなければシッターさんを使うのも当たり前。だから私も「そういうものだ」と思っていたのですが、少し状況が違ったら「子どもが生まれてみたらかわいかったから、仕事復帰はやめました」と言っていたかもしれません。


 何が0歳復帰をさせたか、というと、出産前に味わった仕事の面白さと、同職種男性と同水準の給与でしょう。つまり、処遇において不公平を感じず、赤ちゃんの可愛さが家庭に引っ張り込むパワーに負けないくらい、仕事の魅力を感じる機会があった、ということになります。


 どうせ1カ月で辞めるだろう、と自分で思っていたのに、10年後は「なるべく早く仕事に戻りたい」と思ったこの変化について、考えてみたいと思います。