せっかくなので旅行先では、いつも会わないタイプの人と話そうと思い、たとえばタクシーに乗ったらドライバーに話しかけてみる。
ピッツバーグ市内からホテルまで利用したタクシーのドライバーはライター兼エディター。日本の俳句まで口ずさんで見せたのには驚いた。ホテルから空港までのタクシーでは、ドライバーが元柔道家だった。横浜で数年間、柔道を教えていたこともあるという。彼らは基本的にお喋り好きだから、こちらからちょっと話しかければ、あとは問わず語りに半生を聞かせてくれる。
ドライバーには移民も多いから、彼らがアメリカ生活をどう捉えているか聞くのも面白い。金曜にミズーリ州・カンザス・シティーの空港から乗ったタクシーのドライバーはインド・パキスタン方面出身。長年この仕事をしており、郊外に大きな家を建て5人の子供を育て上げたという。大学を卒業した後、子供たちはカリフォルニアに移り住んだそうだ。「年に何回か飛行機で子供たちに会いに行くのが楽しみ。3時間のフライトだからそんなに遠くない」と話す様子からは幸せそうな「普通の家族」のあり方が垣間見えた。
ホテルから空港に行くため乗ったタクシー・ドライバーはアフガニスタン出身。10数年間ドイツに住んでいたが、規制が多く外国人が起業するのがとても難しかったのでアメリカに移住したそうだ。もう10年近くアメリカに住んでおり、市民権を持っている。カリフォルニアで親戚に頼まれて企業経営に携わったが裏切りにあい、遠くへ引っ越したくなりカンザス・シティーに移り住んで4年になるという。
聞けばアフガニスタンの現政権には知人も多いらしい。祖国に戻って行政の仕事をしないか、という話もあるが勤務地が危険地帯なので行きたくないという。「首都のカブールに仕事があれば帰ってもいいけれど」。暫定政府を率いるカルザイ大統領をどう思うかと尋ねたら「彼の叔父は友人。傀儡政権だという人もいるが、彼の周囲には良い人が多い」と言うので少し驚いた。
ビジネス面ではアメリカびいきだがブッシュ政権には批判的。「民主主義を世界に広めると言いながら電話を盗聴したり石油利権のために軍隊を送ったり。本当に平和を求めるなら軍隊じゃなくて学校を作って教師を派遣すべきだ。大体、ブッシュはもし父親が大統領じゃなかったら、ただのアル中になっていたはずなのに」。クリントンやケネディを褒めるので、民主党支持かと思ったら意外にも「I love Reagan(レーガンは大好きだ)」。ソ連がアフガニスタンに侵攻した際、レーガン政権がアフガンを支援したためだ。第三者の私からは冷戦下では当然の戦略的判断に見えるが、当事者の解釈には重みがある。
ドライバーたちの話はあまりに波乱万丈なので「それ、本当?」と思うことも多い。実際のところ、初対面の外国人である私を相手に多少誇張しているのかもしれないが、面白いことは確かだ。