ワシントンDCで「Searching for the New American Dream(新しいアメリカン・ドリームを探して)」という会議に出席。


主催は労使関係を扱うLabor and Employment Relations Association(LERA) 。研究者、政策担当者、組合関係者200人が集まった。


ミシガン大学へ来て10カ月、アメリカ人カップルのワーク・ライフ・バランスについて文献調査やインタビューをしてきた。実態把握はできた感がある一方で、新たな疑問が浮かんできた。公的育児支援を不要と考える人が少なくないのだ。個人の努力で何とかバランスを取っている。政策担当者はこれをどう見ているのか。


会議はこの疑問に応えてくれた。「現状はひどい。このままではダメ」というのが結論だ。


最近40年で豊かな人はますます豊かになり、ミドルクラスは没落した。男性フルタイム労働者の賃金や家計収入のデータがそれを物語っている。1990年代後半に上位10%の所得は急上昇した。一方で中間層の収入は1970年代からほとんど増えていない。学歴別所得からも同じことが言える。大卒以上の人は所得が上がったが、高校中退者の所得はこの数十年横ばい(コーネル大学のロバート・ハッチェンス教授)。


格差拡大の背景は利益分配が不平等なためという。生産性の伸びに比べて賃金の伸びは少ないし、健康保険のカバー率も30年前と比べて下がっている(経済政策研究所のローレンス・ミッチェル博士)。最低賃金、健康保険、年金制度の改善については「政府がもっとイニシャチブを取るべき」(『仕事の裏切り』著者のべス・シュルマン氏:写真真ん中)という見方が大半を占めた。その通りだと思う。


役員報酬が異常に高いことも格差拡大に一役買っている。何人ものスピーカーが「CEOの所得が高すぎる」「おかしい」と発言していた。問題はそれを変えられるかどうかである。MITのMBA教授のトーマス・コチャン教授(写真左)に尋ねてみると「税制を変えたり透明性を高めることで是正できる」との答えだった。


政府を動かすため地元議員にプレッシャーをかけろ、というのがひとつの結論のようだ。エンロン事件の直後にSOX法が出来たのは世論の後押しあってこそ。ミドルクラスを回復するため、働いた人が報われる制度を求めよ。声を上げれば変えられる---。こうした主張はいかにもアメリカらしい。


特に頻繁に話題に上ったのは健康保険。「今度の選挙で話題にすべき」と話している人が何人もいた。もうすぐ公開されるマイケル・ムーアの新作映画も健康保険をテーマにしている。日本では皆保険に慣れていたが、アメリカでは大卒労働者でも7割、高卒では4割しか健康保険に入っていないそうだ(ミッチェル博士)。世界一豊かな国がこれでは、たしかにおかしい。