ネタばれがあるので、これから見ようと思っている方は読まないでください。


楽しみにしていたのに、期待はずれでがっかりした。テーマは健康保険だと聞いていたから、ある程度想像がついていた。そして内容は予想通りだった。


保険に加入していない人、加入していても細かい条件が合わず必要な治療を受けられない人が次々登場する。保険会社のカスタマーセンターで顧客に「あなたの治療費は保険でカバー出来ない」と断る仕事をしていた女性が出てきて、非人道的なビジネスの仕組みを涙ながらに訴える。保険申請書類の審査担当をしていた医師は、申請を却下すればするほどボーナスが上がる仕組みを議会で告発する。保険会社の経営者は数億、数十億円の報酬をもらっているから、非倫理的なのを通り越して犯罪に見えた。


ヒラリーが大統領夫人だった時、米国にも皆保険制度導入の動きがあったが「社会主義的だ」と批判を浴びて頓挫している。カメラとムーアはカナダ、英国、フランス、キューバに足を運び、彼の地では医療が無料か非常に安価であると紹介する・・・。


私が「すれた」だけかもしれないが、どれも想定の範囲内の話題だった。米国の老人がカナダで薬を買うためバスツアーを組むという話は何年も前にテレビで見たし、米企業の経営者の高すぎる報酬については聞き飽きた感がある。いいかげんに解決策を知りたい。「良い例」として挙げられた外国の例もあまりに単純化しすぎだ。医療費が無料なら税金が高いか財政が苦しいはずなのに、そういう話は一切出てこない。


高等教育を受けたリベラルな観客はこういう話を全部知っているはずだ。そういう意味で残念ながら発見はない。唯一の発見は、登場人物が全て実名・顔出しであることから、いかに多くの人がムーアに期待しているかが伝わってきたこと。


あるいは映画は、次の大統領選挙を見据えた純粋に政治的なものだったのかもしれない。民主党よりの共和党支持者を啓蒙するにはちょうどいい「ゆるさ」ではある。でも、彼らは果たして映画館に、この映画を見るために足を運ぶのだろうか。数年前に「ボウリング・フォー・コロンバイン」を見たときの感動は残念ながら今回は感じられなかった。