先月、メリーランド大学のジャーナリズム学科にモーリン・ビアズレー教授を訪ねた際にいただいた著作だ。


初代ワシントン大統領の夫人から現ブッシュ大統領の夫人まで、彼女たちの人物像とメディアの報じ方が分かる。出版は2005年だが、次の大統領選挙の行方を考える上でも参考になる。


全体を通じて見えてくるのはアメリカとメディアの保守性だ。ファッションやインテリアに多額のカネを使い、派手な話題を提供した夫人たちは好意的な扱いを受ける。いわゆる「女らしい」分野--たとえば教育--に力を注ぎ、夫を立てるような言動は好まれる。一方でファーストレディーとしての仕事に真面目に取り組もうとした人たちは概して叩かれる。閣僚人事など政治の中心的な話題に口を出すのは一番嫌われる行為だ。


メディアに好かれた大統領夫人の代表格がジャクリーン・ケネディー。1年間に4万ドルも洋服代を使ったり、当時の大統領の年俸10万ドルを上回る額を散財したにも関わらず、彼女は愛された。「結婚は女性が望める最高のキャリア」と語ったマミー・アイゼンハワーも然り。ジャクリーンに至っては、ファーストレディーとしての公務を放って観劇に出かけ、ケネディが代行を務めた・・・という信じられないエピソードも紹介されていた。


嫌われ者の代表格はロザリン・カーター。彼女はきわめて真面目に働いたが、メディアはそれを好まなかった。せっかく立ち上げた精神病患者支援のプログラムはきちんと報道されず、ホワイトハウスの夕食会でワインを供するのをやめた・・・というどうでもいいネタを大々的に取り上げたという。


たとえアタマはからっぽでも可愛い女を好む社会の保守性がよく表れている。エピローグで歴史学者のルイス・グールド教授が「大統領夫人の地位はその国の女性の地位を反映していて、働く女性全体の状況より半世代遅れている」と述べているが、まさにその通りだ。また「ヒラリーの登場はジャーナリスト、特に中高年男性ジャーナリストが大統領夫人を大統領の対等なパートナーと認められるかどうかの試金石となった」という指摘もあり、これも的を射ている。


個人的に魅力を感じたのは、ベティー・フォードだ。フォードはニクソンの辞任で大統領に繰り上がり、次の選挙で負けた。大統領選挙に勝たずに大統領になった人として知られている。ミシガン州で育ち、学部はミシガン大学に進んだ。今、ミシガン大学の公共政策学部はフォード・スクールと呼ばれているし、キャンパス内には彼の名前を冠した図書館もある。地元人気は知っていたが、それ以上のことは何も知らなかった。


フォード大統領は就任演説で妻(ファースト・レディー)についてふれた、初の大統領だった。夫婦仲がとてもよかったらしい。ベティー夫人もミシガン州の出身で、ダンサーを志したことがある。一度離婚しており、フォード大統領とは再婚。夫人は女性を要職に登用するよう、夫に進言したという。「"Pillow Talk"を利用した」とはっきり言っている。かなりさばけた性格の人だったようで、あるインタビューの後に「夫と寝る頻度以外のことは何でも尋ねられた。もし、これを聞かれたら『なるべくたくさん』と答えたと思う」と話している。知的な感じはあまりしないが、フランクでパワフルで感じがいい。実際、人気があったようで大統領選挙の際は「ベティーの夫を大統領に」というフレーズが使われたそうだ。


ブッシュ大統領の夫人、バーバラ・ブッシュにも好感を持った。年の割に老けて見えたことから、メディアには意地悪な質問(普通の人がされたら泣いちゃいそうな)もされたが、ユーモアのある切り替えしをしている。彼女が精神的に大変な状況だった時の父ブッシュの対応も心温まるものだった。


登場人物の中で一番、印象が悪かったのはニクソンだ。クリントンが出馬した際「賢すぎる女を妻に持つ男には、みんな、投票したがらない」と言っている。これは女性差別というより男性を馬鹿にした発言だ。


次の選挙の結果次第では、日本語版も出したらいいのではないか。