ミルク漏れ問題:産後休暇がないと、どうなるか


本書で多くの母親研究者が記していたのが「母乳が沁み出てきて困る」という話でした。これは、日本ではあまり聞かない悩みかもしれません。生後数週間は2時間、3時間ごとに母乳をあげることが多いです。少しずつ頻繁に飲む赤ちゃんの場合は、30分とか1時間ごとにあげることもあります。日本では法律で産後6週間未満の母親を就労させてはいけない決まりがあるため、多くの会社づとめの人は、ある程度の期間は赤ちゃんと一緒にいることができます。自営やフリーランスの母親の場合は、法律の適用外なので復帰時期を自分で決めることになりますが、ミルク漏れ問題についてあまり耳にしないように思います。


一方、米国の女性研究者たちが置かれた状況は過酷です。学期の途中に出産した場合、代講を頼めないため産後数日で復帰を余儀なくされたり、産後2週間以内に大量のテスト、レポートの採点をしなくてはならなかったり…。産休中は基本的に無給なので、経済的な事情で休めない母親も少なくありません。赤ちゃん連れでオフィスに来て、講義の合間に授乳したり、搾乳したり。一番困るのは、就職活動のため遠くの街に数日間滞在するような場合です。赤ちゃん連れで出かけるのは難しい。かといって、シッターを雇うお金もない。自宅に置いていくと、母乳が溜まって沁み出てきて、就職面接の間にスーツが濡れてしまった困ったという体験談を寄せる人が本書には多くありました。


産休とか育休というものは、実際に使ったことがある人でないと、なぜ必要かピンとこないかもしれませんが、こうした休業制度が機能していないと、どんな問題が生じるか本書によく描かれています。ちなみに、最新号の"Working Mother"誌には、有給の産休制度が整っている企業ランキングが載っています。1位はシスコの26週。2位はドイツ銀行など3社の18週、5位はゴールドマン・サックスモルガンスタンレーなど4社の16週と続きます。


では、米国では企業の方が大学より、キャリアと育児の両立がしやすいのでしょうか? 結論を急ぐ前に本書の「バイアス」について触れておく必要があるでしょう。