私が客員研究員として所属している Center for the Education of Women(CEW) の年間予算は150万ドル(約1億7250万円)。

そのうち120万ドルはミシガン大学からの拠出で、残りの30万ドル(約3450万円)はFundraiserと呼ばれる職種の人が学外から寄付を集めてくる。この仕事を担当するベス・ハロランさんに話を聞いてみた。

寄付は地元住民の女性たちに頼ることが多い。特にミシガン大学が位置する州の南東部に住む人々の支援が重要だという。背景にはこんな事情がある。

ミシガン州はこれまで自動車業界で働く人が多かった。自動車の製造現場は男性優位だったため、男女の賃金格差が大きいことが問題視されてきた。男性の賃金を100とした場合、女性の賃金は全米では70台後半。一方、ミシガン州は60台で男女平等の観点から見ると遅れていると見られてきた(ちなみに日本の男女間賃金格差はミシガン州とほぼ同じ)。

州内の女性の社会経済的地位を上げるための手段として、CEWは高等教育を重視している。高卒女性の賃金はここ数年下がっているが、大卒以上の女性の賃金は年々上がっているためだ。CEWでは家庭の事情などで教育や仕事を中断した女性向けに無料のキャリアカウンセリングを行ったり(写真)、ワークライフバランスや就職活動、家計管理など個人のスキルアップにつながるセミナーを開催している。

寄付してくれるのはこうした活動の趣旨に賛同する人々だ。
ベスによると、寄付者のリストは総計4000人分。毎年秋にセンターの活動内容や会計報告と共に寄付依頼の手紙を送る。それに加えてベスが直接電話をかけたり個人宅を訪問して、年間500人から寄付を得ている。

寄付を依頼する時は、微妙な空気を読む必要がある。例えば税金対策で悩んでいるといった話題が出てきたら、寄付の話を切り出してもいいというサイン(寄付金は控除を受けられるから)。逆に「最近、別の機関に寄付をしてがっかりした」といった話題が出たら、この人には今年は寄付依頼をしない方がいいと判断する。

「平均すると4〜5回目の訪問で、寄付の依頼をする。最初の訪問では徹底的に相手の話を聞く」と言われて、東京でトップセールスの人に取材した時のことを思い出した。営業成績が良い人は大抵「とにかく相手の話を聞く」と話していた。

ベスはもともとソーシャルワーカーで、問題を抱えた個人の話を聞くことを仕事にしてきた。12年前にたまたま、人に誘われてこの仕事をしたら意外に向いていたという。これまでにミシガン大学ロースクールなど他の機関でも資金集めの仕事をしてきた。高等教育や女性の支援など社会的意義のある事業を持続可能にするには、資金集めが欠かせない。年間3400万円のノルマはプレッシャーが大きそうだが、淡々と仕事をこなす様子を見ると、自分の手でモノを売ったことがない私はすごいなあと思ってしまう。