話には聞いていたが、こちらの大学生は本当によく勉強する。


大学図書館は24時間開いていて、0時近くに行っても空席がほとんどない。キャンパスに隣接したカフェでは分厚い本を読んだりリポートを書いている人の姿が多く見られる。学費が高い上、卒業後も大学時代の成績があらゆるところについて回るためだという。


教える側の意識も高いと思う。
この1月から4月まで、聴講するクラスのシラバス(講義計画)が届いたので、テキストを買い揃えた。講義はメキシコの政治経済に関するもので、最近80年の歴史を押さえ、この国が政治的に不安定で民主主義がなかなか根づかない背景を学び、低賃金労働力の供給源となっている現状を分析する。講義は火曜と木曜に各2時間ずつ、計27回。5月には2週間のフィールド・トリップもある。実際にメキシコに行きNGO政治団体の人に話を聞くのだ。


5年前に『ブランドなんか、いらない』を読んで以来、グローバル企業の製造拠点で働く人の労働環境に興味があった。1997年には海外にあるナイキの製造拠点が"搾取工場"になっているとして、批判された。最近では、日本企業の中にもCSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)の観点から国外拠点の労働環境をチェックするところもある。


こういった関心事をカバーできる講義を探していたら、イアン・ロビンソン教授を紹介された。彼がミシガン州内のショッピング・モールで行った「良心的消費者」に関する研究(特にお金持ちでない消費者が、少し値段が高くても生産者の人権に配慮して作られた靴下を買うことを示した)がとても面白かったので、この冬の講義を聴講させてもらうことにした。講義にはNAFTA北米自由貿易協定)がメキシコ経済にもたらした影響や移民の問題、フェア・トレードの可能性に関する考察も含まれる。


今日、入手したのは本3冊と1010ページ分の本や論文の抜き刷り(写真)。全部で約90ドル。この他に取り寄せ中の本が1冊、ウェブ上にアップされる予定の論文やリポートが16本ある。シラバスによると、毎回、2〜3種類の資料を計50〜60ページ分、読んでディスカッションをするらしい。


この5カ月間は自習状態で、ワークライフバランスに関する本と論文を合わせて4500ページくらい読んだ。自分で探してきたり人に勧められた文献を片端から読み、気になった数字やファクトがあれば参考文献の項目を見て元ネタに当たる・・・という作業の繰り返しで、読むこと自体は楽しいが、何をどういう順序で読むべきか考え資料を入手するのはちょっと面倒だった。一方で、こうして講義を受講すれば、必要な知識を無駄なく体系立てて得ることができるので非常にありがたい。


アメリカの大学や大学院で学んだ経験のある人には「何を今さら」だろうけれど、シラバスが緻密に作られていることには驚いた。教える側の苦労は並大抵でない。そして、私が日本の大学で受けた講義がいかに手抜きだったかを思い知った。ほとんどの教授は自著を教科書として学生に買わせて、それを読み上げるだけだった。講義計画はおろか配布資料もなし。必修科目という理由で、ろくに聞こえない声で話す教授の講義でも取らなくてはならなかった。


今から10年前の国立大学の法学部だったので、他の学部はもっと良かったかもしれないし、最近では改善されているかもしれない。それでも「日本の大学生は勉強しない」というよくある批判には、勉強させる仕組みを作らなかった側の怠慢はどうなんだと言いたくなる。