出張のためフロリダに向かう飛行機の中で、面白い人と隣り合わせになった。


日本企業の米国支社で数年間働いた経験を持つ中国女性である。彼女が働いていたのは、ビジネスパーソンなら誰もが知っている超大企業。仕事が大変で残業が多く、男性中心の産業として知られる業界なので、外国人女性がその文化をどう捉えたのか興味をそそられた。


彼女曰く「仕事はすごく楽しかったし、上司はとてもいい人だった。事情があって辞めた時はさみしかった」とのこと。この企業をそんな風に肯定的に評価する女性がいたとは、はっきり言って驚きだった。


体験を詳しく聞いてみて納得がいった。直属の上司は海外経験が豊富で、フレンドリーな人だったようだ。


その職場では、男性社員は毎日連れ立って昼食に出かけていた。「おい、めし、いくぞ」と声を掛け合っていたので、ある時、彼女も真似をしてみた。「めし、めし」と上司に話しかけたところ、ぎょっとした顔をされ「それは、すごく変だよ。僕に言っても大丈夫だけど、他の人にそんなこと言っちゃダメ」と言われたそうだ。


「どうして?」と彼女に尋ねられたので「めし」は男性用語で女性は使わないのだと答えたら、大笑いしていた。


ずいぶん打ち解けていたようで、彼女の上司は仕事で感じた中国人の問題点を、彼女は日本人の問題点をお互いにこき下ろしあって「それは、ヘン!」と冗談のネタにしていたそうだ。国籍でも性別でも、信頼関係がない間柄で相手の属性に関わる悪口を言うと、大変なことになる。彼女と件の上司はそういう気遣いを超えてオープンに思うところを話し合うことができたようだ。


残業が多い日本企業の風土を嫌う人もいるが、これまた彼女は適応してしまったらしく「一生懸命働くと評価してくれるので、日本企業はいい」と話していた。辞める時は違う部署の人が順繰りに昼食お別れ会を開いてくれて本当に感激したそうである。


男性が大半を占める業界だけに、日本から赴任してきたばかりの時は彼女のような専門職女性とどう接していいか分からないで奇妙な言動を見せる人もいたという。当時、彼女が疑問に感じていたことのいくつかを、日本の企業文化に即して説明したところ、うなずいたり、笑ったりしながら「やっと意味が分った!」とのこと。


とかく批判されることの多い日本企業の文化だが、実際、中に入ってみるといいところもたくさんある。特に、信頼できる男性の上司を見つけることができると、何かと相談に乗ってくれるのでありがたいものだ。外国人を相手にこういうことを伝えるのはなかなか難しいのだが、理屈でなく体験で日本企業の良さを分っている彼女と話して私にも新たな発見があった。