私には、そうは思えないし、「保守化した」と若い女性を責めるだけでは、何もよくならない。


若い女性の保守化」の根拠となるのは、国立社会保障・人口問題研究所の第4回全国家庭動向調査である。リンクの28〜29ページに世代別の性別役割分担観に関する分析がある。これを見ると「夫は外で働き、妻は主婦業に専念」への賛成割合は、29歳以下の女性で47.9%。前回調査では35.7%だったので、12ポイント近く増えている。


これは何を意味するのか。周囲の女子大生や女子大関係者の話を総合すると「20代女性の主婦志向」の背景には少なくとも2つの要因があるようだ。


1)幻想のOLを求める女子学生たち
かつて、大企業の一般職を大量にうんだ大学で教鞭をとる知人によると「今でも一般職志望の女子学生が多い」という。彼女たちは大企業に一般職正社員として入社し、社内結婚で退社というルートを希望しているそうだ。「一般職の非正規化がすすみ、そういう仕事はなくなっているのに、彼女たちはそれを知らない」と知人はみる。


このタイプの若い女性たちに対しては、労働市場の変化について教える必要があるだろう。あなたたちのお母さんの時代には「そういうルート」があったけれど、残念ながら今、その道は狭き門になってしまった。一部企業では一般職の正社員回帰もあるけれど、多くの職場ではサポート業務が非正規労働となり、受付嬢だって消え行く職種だ。若い女性が、その年齢と性別だけで安定した仕事を得る機会は減っている。


2)合理的に判断する賢い女子学生たち
こちらは、比較的高学歴の女子学生から繰り返し聞いた話。


「彼に家事育児を期待できない。子どもは欲しいから、私は出産したら家庭に入る」。


こうした"賢い"女子学生の中には、外資系企業のバックオフィスを希望する人もいる。有名大卒・帰国子女の彼女は「日本企業は初任給が低いのに遅くまで働くのでばかばかしい。外資系企業のフロントは激務。バックオフィスはお給料は日系より良いし研修機会もある。出産までお金を貯め経験を積むにはちょうどいい」と話す。現状をシビアに見据えて最適戦略を選んでいる。


一方で「若い男性の共働き志向」という話も聞く。この点について別の女子学生に尋ねると、厳しい答えが返ってきた。


「男の子たちは、1人で働いて家族を支えるのは大変だから、女性にも働いて欲しいという。でも、家事を自分でやる気はなくて、専業主婦だったお母さんと同じようなことを、彼女に求めている。それは無理だから、女性は家庭に入りたいと思うんです」。


就職相談やら何やらで話をした女子学生と女子大の先生数名の話だから、統計的に有意ではないけれど、「若い女性保守化」の背景が見えてくる。要するに企業社会は進歩したけれど、家庭はまだ伝統的なままなのだ。


前出の社人研の報告書に戻ってみよう。P11には「40歳代50歳代の夫の3割弱はまったく家事分担せず、妻が常勤でも2割弱が分担しない」とある。フルタイムで仕事をしながら家事育児をこなすのが大変なことは、若い女性にも容易に想像がつく。「あんなふうになりたくない」と思った結果が仕事より主婦という回答を選ばせたのではないか。


もうひとつ、私の世代と違うのは、いわゆる有名大学の女子学生でも「子どもが欲しい」と正面きっていう人が増えていることだ。中央官庁での勤務が決まっていた女子東大生は、初対面の挨拶を終えるとすぐ「私は3人子どもが欲しいんです」と話してくれた。


その後、彼女は「保守的に思われるかもしれませんが」と付け加えている。目の前の優秀な女子学生が「子どもが欲しい」という希望を「保守的かもしれませんが」と留保条件つきで口にしたことで、私は、自分たちの世代が作った「負の遺産」を感じた。高等教育を受けた女性は仕事を優先させるべきである、たとえ家族をあきらめてでも・・・というメッセージを、私たちの世代は発信し続けているのではないか。


そのメッセージは、ひとつ、ふたつ上の世代の女性にとっては「人生の選択肢を増やす戦い」における有効な武器であった。当時の女性は産むことに縛り付けられていたから、「産まなくてもいい」「仕事を優先にしてもいい」という主張は、女性解放の武器たりえた。


しかしその武器は、いつしか「産む機会を犠牲にしても仕事を優先にすべき」という論調にすり変わっていった。私自身がそういう価値観に縛られた世代だったので、この縛られ感はよく分かる。


だから今、女子学生と話をする時、彼女たちが当たり前のように「仕事も子どもも」と言うのを聞くと、私はむしろ嬉しい。ようやく女性も、家族を持つことをあきらめずに仕事を求めることができるようになったのだ。それはこれまでずっと、多くの男性にとって当たり前のことだったのだ。


そういうわけで、大人がやるべきなのは、若い女性の保守化を嘆くことではない。彼女たちのうち、「仕事も家庭も」望んでいる層が、希望を実現できるような職場環境を作ること。若い男性が家庭責任を果たせるような社会を作ることだ。課題は若者ではなく、私たちおじさん・おばさんの側にある。