主催は東京大学大学院理学系研究科・理学部の男女共同参画委員会。


理系の男性研究者と男子学生が対象ということで、タイトルは「男性のワーク・ライフ・バランス〜フェアな人ほど大変なのはなぜか」としました。


企画してくださったのは、生物学専攻の大学院生・小寺さん。もともとtwitterでやり取りがあり、私の本を読んで下さって、今年2月にお茶を飲みつつお話をしたのが、きっかけです。


当日お話した内容は小寺さん(@suikyo_1221)がこちらにまとめて下さったのでご覧ください。


パネルでご一緒した黒田真也先生のお話は、とても励まされるものでした。同じく理系の研究者である奥様との間に、お子さんが2人いらっしゃいます。家事も育児も当たり前のこととして分担している様子は新鮮でした。こういう先生に、私も大学で教わってみたいです。


副題にした「フェアな人ほど大変」の部分について、十二分に意図を汲み取って下さった、素敵なイクメンのいちのせきさん(@Ichinoseki)のブログがこちら


当日、お話したこと・できなかったことも含め、行間を埋めてあまりある記事を書いてくださった、ワーキングマザーのこべにさん(@kobeni)のブログはこちらです。


私からは、企画に関連した裏話を少し。


男女共同参画」関連のイベントというと、女性対象のことが多いのですが、今回は、あえて「男性研究者・学生のための」と対象を絞り込んでいます。この趣旨に共感して、今回は男性目線でお話しました。


なぜなら、女性が働く環境を整えるためには、男性を取り巻く環境を変える必要があるからです。"弱者保護"としての女性活用や男女共同参画は、それ自体、社会正義としての意味は大きいものの、実効性は弱いです。もし自分が生きているうちに社会が変わってほしいと思ったら、戦略的なアプローチが必要です。


10年以上前、日本でいちばん売れているビジネス誌の記者をしていた時のこと。私は編集会議で「女性活用」の企画を出してはつぶされていました。40代の男性上司いわく「そんな話は、うちの読者は興味を持たないよ」。確かに読者の9割を占める、比較的恵まれたビジネスマンにとって、女性問題は「俺達には関係ない」話でした。20代後半の私には取りたてて説得材料がなく、悔しいなーと思う日々が続くのみ。


風向きが変わったのは、数年後、少子高齢化が進んで日本の人口が減り始めた時からです。経済紙・誌の論調が急に女性フレンドリーになりました。少子高齢化が進む→労働人口が足りなくなる→企業は優秀な女性をもっと活用せよ…。おじさんたちは、それはそれは見事なほどに考え方を変えたのです。


最初、私は苦々しい思いでした。「3年前に私が言ってた通りじゃないか」。


しばらくして気づいたのは「それが女性のためになる」という切り口だけで、おじさんを説得しようとした自分の未熟さ。この社会で決定権を持っているのは、まだまだおじさんが多いです。彼らを説得する材料として有効なのは、徹頭徹尾、経済の論理なのでした。そして、本当に世の中を変えようと思ったら、この説得材料を使いこなす必要があります。(もちろん、正攻法でデモをするとか企業を訴えるという方法もあります。私は心情的にそうやって戦う人を応援していますが、ものすごく時間がかかるのも事実です)


今や、女性活用と経済合理性を結び付けたデータは、色んなところで見ることができます。女性役員比率とROEROAの相関、女性管理職の登用で生まれたヒット商品などなど。


このように「女を使うとトクですよ」というデータや事例が出てきた時、初めて「彼ら」にも通じるんです。「やった方がいいかも」と。


そして女性が仕事を続ける際の課題は依然として出産・育児です。子どもがいない女性でもなかなか上に行けない、という問題も存在しますが、私自身の経験上、ある程度まともな組織では、むしろ子どもがいなくてフル稼働できる優秀な女性は重宝され、男性上司のバックアップも受けやすい。


子どもを育てている、時間的な制約を抱える女性たちが、仕事を続けられるか。また、単に続けるだけでなく、どこまで上を目指せるか。大きな問題はここだと私は思っています。そして、これまでも本や何かに再三書いてきましたが、育児が「女性の問題」と認識されている限り、男女間にある階級差が埋まることはないでしょう。

だからこそ、男性の家庭参加が重要なのであり、それを可能にする切り口として、「男性のワーク・ライフ・バランス」が重要というわけです。


最後に、東大=エリート層向けに話をすることで、どんな社会的意義あるのか、という点も補足したいと思います。


将来、組織で意思決定権を持つ立場につく人が何を考え、どう行動するかは、周囲への波及効果が大きいのでとても重要です。自分自身を振り返っても、東大卒の元上司が性別を問わない実力主義であったおかげで、仕事の上で大きな恩恵を受けました。留学したいと相談した時、ふたつ返事で推薦状を書いてくれたのは、この上司でした。ちなみに奥さまも東大で、様々な知的話題を夫婦で共有しているようです。彼が「妻は黙って家事育児をしていればよい」というタイプだったら、私が留学することもなかったでしょう。


こんな具合に、力を持つ男性が配偶者、同僚、部下の女性をどう認識し、どう接するかは、男女共同参画という観点から非常に重要です。


ここまで、エリート層向けに、経済合理性や戦略的思考という切り口でワーク・ライフ・バランスや男女共同参画を語る意義について書きました。「普通の人はどうすればいいの?」という点については、また、別の機会をもうけて書いてみます。こちらの問題について真剣に取り組むなら、きちんと「戦う」必要があるから、ちょっと覚悟が必要かなと思います。