保育園を巡る議論が盛り上がっています。これまでは、働く親と、待機児童の保護者と保育士さん等、関係者は知っているけれど、それ以外の大多数はよく分からない話でした。


2月中旬にはてな匿名ダイヤリーで「保育園落ちた、日本死ね!」を書いた人。国会の質疑を見て、自分たち(待機児童の親)は存在すると声を上げた人たちが、問題を少しずつ可視化しています。


メディアも変化している印象を受けます。例えば「女性自身」は、所沢市の育休上の子退園問題を取り上げました。この問題のせいで、市内で産み控えが起きていることを、母子手帳の発行数で具体的に提示、当事者の切実な声とあわせて説得力ある記事です。


週刊文春」は最新号で「日本死ね!」ブログの筆者に直接取材、猪熊弘子さんが記事を書いています。


「女性自身」は40〜50代の主婦向けの記事が多く、保育園ユーザーとは世代も就業形態も違います。「週刊文春」はこれまでの報道からは男性読者が多い印象です。


要するに、保育園不足に困っている当事者以外が読むメディアが、これを取り上げていることが重要なのです。雑誌の企画で大事なのは「読者層が興味を持つか」「読者層にとってどんな意味があるか」。ですから、「女性自身」のメイン読者である中高年主婦層や、「週刊文春」を読みそうな男性にとって、保育園不足は自分たちも考えるべき問題だと伝わるのは、良いことだと思います。


保育園不足の根本原因は、子どもに手薄い日本の予算です。変えるためには幅広い人に理解を求める必要があるのです。


手元に『チャレンジ! チルドレン・ファースト』(写真)と題したブックレットがあります。発行は2010年12月ですが、5年以上経った今、起きている保育園論議を考える上で非常に参考になります。


同書の前半には、同年10月、自治労会館で開かれた「子ども・子育て新システム」に関する公開シンポジウムの再録が掲載されています。P20に掲載されている慶応大学・駒村康平教授(社会保障)の発言は、政府が何をすべきか教えてくれます。


「本格的な両立支援をやった場合は、待機児童は今言われたように2万、3万の水準ではなくて、働きたいお母さんに全部来ていただき、もし出生率の回復を期待するならば、おそらく50万〜80万の待機児童が現実のものになると思います。これを全部賄うためには、1兆円から2兆円というお金が必要になってきます」


これは、保育園と幼稚園両方の保護者を経験した私が見て、とても納得感がいく話です。幼稚園保護者は専業主婦も多いのですが、預かり保育を利用して働いている人もいます。預かりの枠さえ増えれば自分も働きたい、という声は何人もの専業ママから聞きました。彼女たちは待機児童が多い現状を知って、求職そのものをあきらめているのです。


日本の人口減少、労働力減少は海外でもよく知られています。経済成長のため、女性に仕事も出産も求めるなら、本気で異次元レベルの両立支援政策を作る必要があるのです。


2兆円はおよそ消費税1%の増税で得られる税収に相当します。要するに、1%の増税を丸ごと、保育園や預かり保育などの激増に充てない限り、作っても作っても待機が減らない現状は変わりません。


問われているのは政治にその覚悟があるのか、です。1億総活躍や女性活躍推進が絵に描いた餅になるか、実効力あるものになるかは、兆単位の予算を充てることができるか、にかかっています。