ここのところ、中国出身の大学院生と話す機会がある。

「"東京大学"の他にもう一つ、日本の大学の名前を知っている」と言いながら彼女が近くにあった紙に書いて見せたのは「早稲田」。アジア太平洋学科があって留学生が多いからかなと思ったが、そうではないらしい。

彼女曰く「有名な女優が通っていたでしょう」。「広末涼子?」と今度は私が書いたら「そうそう!」とうなずいて笑っていた。大学名を日本語で何と読むのかと聞かれたので「Waseda」だと教えてあげた。

どうも日本の芸能界が好きなようだ。今日会った時も、隣に座ってノートを取り出して「松嶋菜々子」と書いている。「知っているか」と聞かれたので「知っている。人気のある俳優と結婚した」と言うと、相手は「反町隆史」だろう、とまた書いて見せてくれた。「どうして日本の俳優の名前をよく知ってるの?」と聞いたら「テレビドラマで見た。『GTO』」との答え。

中学レベルの英会話と漢字の筆談で、面白いほど話が通じた。中国(正確には台湾だけれど)の俳優では「金城武」が格好いいと思う、と私が言うと「深田恭子」と一緒にドラマに出ていたのを見た、という答えが返ってくる。

いずれも6,7年前、私が芸能誌の編集をしていた頃に日本で放映されていたドラマで、これらの番組紹介記事を山のように書いた。当時は細かい名数確認が大変で頭がクラクラしたが、その経験がこんなところで役立つとは。

「日本では『冬のソナタ』とか韓国のドラマが人気だけれど、中国ではどう?」と聞いてみると、「韓国ドラマはラブストーリーばかりだから、ちょっと飽きる。登場人物が必ず事故に遭うし・・・」。20代始めの若い彼女からすると、日本のドラマの方がバラエティに富んでいて面白いのかもしれない。

そう言えば初対面で出身地について話した時、彼女が「昔、日本と戦争をしたからお祖父ちゃんの世代はまだそのことを気にしてる。私たちは全然気にしないけどね」と言っていた。中国の大学生といえば反日教育を受けて育った世代というイメージがあったし、この間の反日デモが記憶にあったので、彼女の屈託のなさには驚いた。

ソフト・パワーとはこのことを言うのだと身をもって知った。政治家同士がいくら真剣に話し合っても、若者にここまでの親日感情を植えつけるのはおそらく無理だろう。日本の対中外交予算の一部を割いて、テレビドラマを録画して無料配布すればいいんじゃないかと思った。