「The Michigan Review(写真)」は保守系の学生新聞だ。


25年の歴史があり、月2回・4万部を発行していて、30人のスタッフライターを抱える。この新聞はミシガン大学が入試に際し、アフリカ系の入学志願者にポイント加算する「積極的是正措置(アファーマティブアクション)」に反対している。11月の選挙で是非が問われたMichigan Civil Rights Initiative(MCRI:アファーマティブアクションを廃止する規定がある)には賛成の立場を取る。


「日本ではMCRIについては、ほとんど報道されていない。家族や友人・知人向けに書いているブログで紹介したい」と言って、編集長のニック・チェオラスさん(政治学部の学生・ギリシャ系の白人男性)に話を聞いた。


彼がアファーマティブアクションに反対する理由は2つある。1つ目はアフリカ系が皆、恵まれない階層というわけではないこと。「大学入試に際して志願者が抱えるハンディを考慮に入れるなら、肌の色だけでなく片親だとか、貧しい家庭の出身だとか、親の学歴が高くないことなどを総合的に判断すべきだ。ミシガン大がアフリカ系のみを優遇するのはフェアではない」。10年以上前にアファーマティブアクションを廃止したカリフォルニアの州立大学では、入試に際し人種以外の社会経済的な背景を問う項目が設けられているという。


2つ目の理由は「教室内では多様な人種が混じり合っていても、一歩外に出れば白人は白人と、黒人は黒人と、アジア系はアジア系同士で付き合う。結局、似た者同士が一緒にいる方が心地いいと思うのだから、無理に多様性を確保しようとするのはおかしい」。実際、レストランやバーには白人客ばかりの店もある。行き交う人々を見ていると、同じ人種同士で連れ立っていることが多い。


私はアファーマティブアクションの基本的な考えに賛成するが、アジア系を優遇措置の対象にしないことに違和感を覚えていた。もともとアジア系は全体平均より学歴が高いため、優遇する必要がないとされる。人種的には少数派でありながら、アジア系は自助努力で大学入学を果たしアフリカ系は制度で優遇されているように見える現状は、やはり不公平に映る。


実はキャンパス内では、うかつに本音を言えない。人種差別主義者のレッテルを貼られるおそれがあるためだ。高等教育を受けた白人にとって、アフリカ系に対して考慮するのはある種のマナーである。以前、経済学部の偉い教授(白人男性)に会った際、話の流れで学生の人種構成比率とその理由について尋ねたところ、彼が注意深く言葉を選びながら答えたことを思い出す。たとえ私的な会話でも、知的階級の人々は政治的に正しい発言をするのだ。


ニックさんはこのような状況について「多くの白人は奴隷制や人種差別の歴史からアフリカ系に対して罪悪感を覚えていて、個人的に責任を取らねばと考えている」と見ている。この辺の構図は「日本のリベラル知識人の中国・韓国に対する態度」と「それを批判する保守派」の関係にとてもよく似ているなと感じた。


ダイバーシティが組織にもたらす効用を彼があまり理解していないように見えたので、この点は同意できなかったが、話を聞いてみると筋が通っている部分も多かった。単なる人種差別主義者というわけではないようだ。アファーマティブアクション賛成派はこういう意見を持つ人を説得するアプローチを考える必要があると思う。