午前中は"Is HIV/AIDS Really a Black Deseases?(HIVは本当に黒人の病気か?)"というもの。


発表はBlackWomensHealth.comというサイトの責任者で医学博士のデビッド・プライヤーさん。米国人のエイズ患者を人種別に見ると、アフリカ系が圧倒的に多い。特にアフリカ系男性はHIVポジティブでありながら、気づいていない人の割合が高いそうだ。貧困など社会経済的な要因に加え、アフリカ系男性は同性愛者を嫌うため、"同性愛者の病気"というイメージの強いエイズについて注意を喚起するのが難しいそうだ。


米国内のエイズ報道は1980年代に急増し、その後87年を境に減っていったという話も面白かった。理由は「メディアがエイズ報道に疲れたから」とプライヤーさんは説明する。最近ではよほど目新しい要素がないとエイズ関連の話題は取り上げられないという。代わって今、好まれる話題は「アフリカ諸国でエイズの危機」。エイズはアフリカ大陸の問題というイメージが広まり、国内での関心は低くなる一方だそうだ。


感染予防のためには、アフリカ系アメリカ人エイズのリスクが高いことを知らせたほうがいい。でも一方で、アフリカ系への差別意識が高まるのでは、と危惧する人もいる。同じ少数人種でありながら、アジア系アメリカ人HIVポジティブの割合が少ないから、アフリカ系の人が感じる差別への不安はよく理解できた。


お昼は"Genetics and Race(遺伝子と人種)"について、ミシガン大公衆衛生学部教授で元弁護士のトビー・シトリンさんの発表。米メディアが遺伝と人種の相関を強調しがちであると批判していた。


「遺伝子が人種を規定しているわけではない」という内容の研究を紹介するのに、反対の意味合いの見出しをつけると聞いて驚いた。トンデモ媒体ならともかく、ニューヨーク・タイムズワシントン・ポストBBCがそうしたことをしている例が引き合いに出されていた。さすがに、記事の内容は研究結果に沿ったものだろう。センセーショナルな見出しをつけて関心を集めようとするのは、いずこも同じなのだなと思った。


午後は連邦議員の公衆衛生政策担当スタッフを務めるアランサン・ジョーンズさん(写真)の基調講演で、タイトルは"Somehwere Between Sincere Ignorance, Conscientious Stupidity, and Audacious Optimism(誠実な無知と良心的な愚かさと無謀な楽観主義の間のどこかに)"。抽象的に見えるが、要するに国民皆保険や有給の育児休暇など政府のサービス拡大を求めていこう、という趣旨だ。


リベラル派の友人知人から何度となく聞いてきた訴えだが、実現性は高いといえない。「政府は小さい方がいい」と考える人が依然として多いためだ。この講演は内容より話し方の上手さに感心した。お腹の底から声が出ていて、間の取り方が的確で、黙っている時間も含めて会場の空気をコントロールしている。聴衆は咳ひとつしない。先日聞いた、元外交官の講演にも同じことを感じたが、政治の仕事をしている人はスピーチのトレーニングをしっかり受けているのだろう。