大学コミュニティーでは、同性愛者の権利について聞く機会が多い。


ミシガン大学には「The Office of LGBT Affairs(LGBT問題事務室)」と呼ばれる組織があり、同性愛の学生が差別を受けないよう啓蒙活動をしている。フルタイムのスタッフが4人で運営費は年間約600万円。


私はアメリカに来てから半年で、4人のカミングアウトしている同性愛の人と話したので何となく事情を理解したつもりになっていたが、内情はなかなか複雑なようだ。特に興味深かったのが呼称に関する議論だ。今、LGBT問題事務室は、その呼び名をどう変えるべきか検討しているという。「LGBT」は「レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー」の略で、この話題を論じる際、よく耳にする用語である。


LGBTに代わりニューヨークやシカゴ、サンフランシスコなど"先進的な"都市では最近、クイア(queer)」という言葉を使うのが潮流で、例えば同性愛関連の問題を扱う組織は「クイア・リソース・センター」と呼ばれるようになっている。クイアは「変態」という意味を含み、差別的に響くので聞かされた方は、一瞬、ぎょっとする。それを逆手にとって同性愛者への差別について社会の注意を喚起しようという意図があるようだ。


40代以降の世代は、このような奇を衒ったネーミングには躊躇するようで、LGBT問題事務室の人も「私たちの時代は、"ゲイ"で充分、意図が通じたんですけどねえ」とちょっと当惑気味だった。


呼称が問題になる背景には、性的指向の多様化がある。例えば女性の同性愛で"男役"の人と性転換して男性になった元女性では、前者の方が厳しい差別にさらされて、生活や仕事で困難を感じているそうだ。男役のレズビアンの弁護士が、パンツスーツにネクタイを身に着けて入廷しようとしたところ、裁判官に「着替えてくるように」と言われた事例があるそうだ。このように、生物的な性別と性的指向、さらに性的アイデンティティーが多数派とは違う人が増えており、それぞれが自分のアイデンティティーに合った呼び方を求めているそうだ。


外形標準で言えば「トランス・ジェンダー」がほぼ全ての性的マイノリティーを言い表すことができる用語だが「トランス」に含まれる「性転換」のイメージを嫌う人が多く、これまた使えないのだという。


初耳だったので驚いたが、感覚的には理解できた。私も日本の企業社会で「女」という少数派に属しているためだろう。新聞などで「働く女性」という言葉を見るたび違和感を覚える。「主婦だって働いてるじゃないか」と思うし、文脈によっては「じゃあ、"働かない女"って何なの?」と反発を感じる。「キャリアウーマン」には「肩肘張って無理してる」という暗黙の枕詞を伴い、嘲笑を含んだニュアンスで使われることが多い気がするので嫌だ。「ワーキングウーマン」が今のところはぴったりくるが、何で英語で言わなくきゃいけないのかという気もする。


こんな具合に「何か違う」感覚をきっと同性愛の人々も日々感じているのだろう。