プエルトリコ(写真)に行き、INFORMSという学会で発表を聞いた。


一番面白かったのは、イリノイ大学アーバナ・シャンペン校の教授による「メディアに出る時の注意点」。自身の経験を元に取材前の準備、米メディアの取材手法や誌面・番組の実態、読者や視聴者からの反応を語った。


教授はクルマの二酸化炭素排出量と乗る人の体重について調べ、興味深い結果--米国人の体重増加とクルマからの二酸化炭素排出量増加の間には統計的に有意な相関がある--を得た。本来は留保条件がたくさんついているのだが、単純化を好む米メディアは「肥満が環境汚染の原因」とセンセーショナルに報道。当事者の教授がその一部始終を報告した。


元論文が評判を呼んだのを見て、大学はメディアの取材に備え万全の準備をした。大学新聞は想定問答を作成、素直なものでは「研究の動機」から意地悪なものは「あなたの体重は何ポンド?」といったものまであり、かなりよく出来ていた。この大学にとり、スポーツ以外で全米メディアから受けた取材で最大規模となった。


取材日に研究室で待機していると、最初は地元紙やラジオから、やがてはワシントン・ポストやロサンゼルス・タイムズといった全国紙からメールや電話で次々に質問が寄せられた。大学の広報担当者が適宜、教授につないでいく。


いくつかのメディアは教授の主張とずれた内容を記事や番組として流した。研究の細部を端折り「肥満の人々を攻撃する大学教授像」を作り上げたのだ。読者からの抗議メールが殺到、インターネット上にはブログの記事も多数出て、Googleでの名前検索結果もみるみるうちに急増した。


一連の流れを時系列に沿ってドラマチックに紹介し、学会発表と思えない(?)面白さだった。初日だったため、聴衆が10人以下と少なかったのが非常にもったいなく思えた。始めに「日本から来た記者だ」と名乗っておいたので、話の途中でネタを振ってくれたりして(「この対応は記者から見てどうですか?」云々)なかなか楽しかった。


メディア・トレーニングの成果か、このプレゼンはスライドも分かりやすく話のテンポも良くてとても上手だったと思う。日本では質の高いイメージの米大手メディアだが、重要な細部を端折ってセンセーショナリズムに走る傾向があるのは少々驚いた。取材対象から「ウソだ」と指摘されないギリギリの線で面白くまとめようと記者も必死なのだ。


ちなみに、一連の取材で一番良かったのはワシントン・ポストだそうだ。新聞記者がじっくり話を聞いた上で記事を書き、テレビ番組への出演もアレンジしたという。取材対象と信頼関係を築くのが、やはり大事なのだ。