ぜひ読んで欲しいのが、アメリカのWorking Mother誌最新号。


「母親にとって良い会社100」を特集している。これを見ると「育児支援制度を整えたのに、女性社員のやる気が上がらないのはなぜか」という問いの設定そのものが間違っていることが分かるだろう。


日本では依然として「産んでも働き続けること」が課題だ。出産で7割が辞めてしまうから、「母親であること」と「働くこと」を両立させるための施策が中心になる。最近では、産休育休を取った後、時短勤務で復帰…というパターンをよく聞く。


一方で、WMが選ぶベスト企業の条件は厳しい。アメリカでは大多数の母親が働いているから、女性社員が産後、復帰するのは当たり前。母親でも昇進できる仕組みを作り、それが機能して始めて「母親にとって良い会社」になる。


アメリカの良い企業は、母でも昇進できるよう、何をしているのか。同誌が紹介する様々な制度や事例を見ていて分かったのは3つのポイントだ。


1)柔軟な働き方
2)仕事のペースをコントロールできる
3)1)2)を経験した人が役員や上級管理職に就いている


1)は、フレックスタイムや時短勤務、在宅勤務など。全米平均では導入が約半分に留まるフレックスタイムや在宅勤務は、WMベスト100社は、全てが導入済み。日本では、業種によっては「在宅勤務は無理」という話を聞くが、米国ではそんな話は出てこない。日本では今のところ、1)をがんばって導入している企業が多いが、働き方はもっと個人の裁量に任せたほうがいいのではないか。


最近、日本企業の人事関係者から「育児支援制度を整えたのに女性社員のやる気が上がらない」という声を聞く。そういう企業に必要なのは2)の施策だ。母親に必要なのは「育児期に仕事のペースを落とす」ことだけでなく、しかるべき時が来たら「再び仕事のペースを上げる」可能性が開かれていることだ。


その点、特に良い仕組みを持つのは、会計事務所だ。デロイト、KPMG、プライスウォーターハウス・クーパースは3)に当てはまる事例が多くあり、参考になる。これらの企業では、上級管理職もフレックス制度を使っていたり、一度、育児のために仕事のペースを落とした人が、その後、再びペースアップしてパートナーになった例がたくさんある。記事には「母親たちは短期のバランスを重視するあまり、長期的な目標を簡単にあきらめてしまう」という人事担当者のコメントが出てくる。それでも、解決策や成功例の数は日本と比較にならない。


母親(に限らず、育児を主に担う人)が、仕事への意欲をなくしてしまう理由のひとつは、いったん貼られた二級市民のラベルが一生はがれないことである。日本企業を見渡してみれば、責任ある地位に就いているのは、男性か子どものいない女性ばかり。要するに、育児責任を担うと決めたとたん、昇進や面白い仕事から排除されたマミー・トラックを歩くことを余儀なくされる。


日本企業が母親のモチベーションアップを目指すなら、やるべきことは決まっている。フレックスや時短、週3日勤務などを組み合わせ、日々の働き方を自分の裁量で決め、働きながら家庭のニーズにも応えられるようにすること。また、仕事の量や労働時間そのものを、その時々の状況に応じて長期で変えられること。このようにして、時間のコントロール権を自らの手に取り戻した人が、家庭を諦めずに上級職に就く例が増えることが必要だ。


そうなった時、始めて日本の企業もワーク・ライフ・バランス支援に成功したと言えるのであって、1)に手をつけ始めたばかりの現状で「うちの女性はやる気がない」とぼやくのは、はっきり言って勉強不足である。