私たちの英語の先生・Jamesは、ものすごくリベラルだ。

毎朝、駅前のガソリンスタンドでニューヨーク・タイムズを買っている。アメリカの社会・政治ネタから宗教までリベラル知識人の視点で色々教えてくれるので、とても勉強になる。コーネル大学で博士号を取得し、ニューヨーク州にあるリベラルアーツのカレッジでtenureを持つちゃんとした「教授」なのだが、「先生」と呼ぶと「アメリカ流にしなさい」と怒られるので生徒はみんなファーストネームで呼んでいる。

日曜の朝はクエーカーの集まりに連れて行ってもらった。James自身はクエーカー教徒ではないが、仕事でBryn Mawrに滞在する時は、毎週日曜10時半から開かれているクエーカーのミーティングに参加している。”礼拝”でなく”ミーティング”と呼ぶのがポイント(写真)で、宗教っぽさがほとんどない。
会場の外観はごく普通の住宅ふうで、屋根に十字架はなし。信者(とは呼ばずに彼らは「フレンズ」と呼び合う)が集まる部屋は四方から中心向きにベンチが配置されている。ステンドグラスもキリストやマリア像、祭壇の類は一切なく室内は殺風景といってもいいくらいだ。

この日は約30人が集まってきて、この部屋で瞑想した。牧師や司祭はもちろん、司会者すらいない。時折誰かが立ち上がって思いついた意見や考えを述べる。クエーカーの教えに関することから、イスラエルによるレバノン爆撃など社会問題に関する意見まで。大半の時間は皆黙って瞑想していて、聞こえてくるのは扇風機の音と蝉の声ばかり。部屋は少し黴臭くて目を閉じていると日本のお寺にいるようだ。

1時間の瞑想が終わると、隣の部屋でお茶を飲みながらお喋り。4、5人の参加者と話したら、面白いことが分かった。
① 異教徒に対して開かれている
ある女性はカソリック教徒だが、クエーカーの考え方やミーティング方式が気に入って参加するようになったという。彼女は「クエーカーは瞑想をするから、西洋の仏教と呼ばれているのよ」と教えてくれた。別の男性は子供がクエーカーの学校(ミーティングが開かれた建物の裏にある)に通っているので、自分も様子を見るために参加するようになったとのこと。彼自身はクエーカー教徒ではない。
② 高学歴・プロフェッショナルの人々が多い
参加者は近隣の大学で教鞭を執る人や研究者など高学歴専門職ばかり。彼らは大抵、高収入だから、学費の高いクエーカーの学校に子供を通わせることができる。
学校の話を聞いていて、金曜のクラスで聞いたスクール・バウチャー制度の問題点を思い出した。アメリカには私立学校に子供を通わせたいがさほど収入が高くない親のために、スクール・バウチャー制度がある。コンセプトだけ聞けば良さそうだが、リベラル派はこれを批判している。Dr.Jordenによると、「本当に教育レベルの高い私立校は学費が高すぎてバウチャーでは足りない。バウチャーでまかなえる学費の安い私立校は、保守的な宗教校が大半で教育の質は低い。スクール・バウチャーは実質的には連邦政府による宗教教育支援になっている。宗教学校の中でも、クエーカーの学校は教育の質が高く不自然な宗教教育をしない。けれど学費が高い」。表向きの目的と違うことに税金が使われる問題は、やっぱりアメリカでも起きているのだ。
③ 政治的にはリベラル
ミーティング参加者のクルマには”War is not a solution”とか”Bush must go”と書かれたステッカーが貼ってあった。
高学歴、高収入の親は子供に質が高くリベラルな教育を施す---。ここまで絵に描いたような図式が見えるとは。米国旅行・リベラル向けオプショナルツアーという感じ。

それにしても、宗教といっても色々あるんだなあと思う。アメリカ人の宗教といえば、キリスト教保守派→ブッシュ支持層というマイナスイメージを抱いていたのだが、目にしたのは予想外の光景だった。Jamesの話では「天国に至る道は2つある。1つは天国に向かう道。もう1つは天国があるかどうかについてディスカッションする道。クエーカー教徒は後者の道をいく」らしい。私はこういう理屈っぽい考え方が好きだ(別の人の話では、クエーカーにも色々な宗派があって天国を信じている人たちもいるというが)。他にもいくつか「リベラルな教会」がアメリカにあるというので、この1年の間に見てみたい。
一方で、大学コミュニティーに閉じこもっているとアメリカについての理解が偏ることがよく分かった。彼らの思考パターンは日本のリベラル知識人とよく似ているから、私個人としては大半に賛成。きちんとした英語を話さずとも、ある種の単語を並べるだけで言いたいことが通じてしまう。知識人は総じて異文化に対して寛容なので、外国人も快適に過ごせる。けれど今の政治体制を見れば、こういうリベラルな人が多数派でないことが分かる。せっかく1年間滞在するので、田舎に足を伸ばし、当たり前のようにブッシュを支持するタイプの人々にもぜひ話を聞いてみたい。